不動産の滅失等による競売手続の取消し

 民訴旧六五三条は、登記官から競売手続の開始を妨ぐべき事実の通知があったときは、裁判所はその事情により競売手続を取り消すべき旨を規定しており、不動産の滅失又は売却の結果当該不動産の所有権の移転を妨げる事由が登記官以外から判明した場合には、規定を準用して競売手続の取消しができると解されています。
 民事執行法は、この点を明文化し、不動産の滅失その他売却による不動産の移転を妨げる事情が明らかとたったときは、執行裁判所は、競売の手続を取り消さなければならないとしています。
 競売手続が進行中に、買受人が所有権を取得することができないような事由が生じた場合には、手続を続行することは無意味であるからです。
 この場合は、取消事由の発生原因のいかんを問わず、執行裁判所は職権により競売手続を取り消さなければならない。それが債務者、所有者自身又は代金納付前の買受人自身の行為により目的建物が滅失したとしても、同様に取り扱われる。その滅失に至った行為の当、不当は別個の法律問題として処理されることとなる。例えば、買受人が、代金納付前にその責めに帰すべき事由によって滅失させた場合には、債務者、所有者は、買受人に対して損害賠償の請求をすることができるがごときです。

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 建物の滅失は、債務者、所有者自身の取壊し、火災、地震、風水害等の天災による滅失、判決等に基づく執行によって建物が収去された場合が考えられます。
 区分所有権の対象となっている建物に対し、競売開始決定がなされたところ、隣接する建物の障壁が除去されて合抹され一抹の建物となった場合、又は相隣接する二個の建物が合体して一個の建物となった場合には、双方建物の滅失登記及び建物合体を登記原因とする建物表示登記を申請すべきであるとされていますが、この場合滅失登記をした双方の建物上の権利も消滅したものとして取り扱われる。したがって、建物の滅失登記がされた以上、差押えの効力を主張することはできないので、執行裁判所は、競売手続を取り消すことになる。差押債権者は、合抹後の建物が前の所有者と同一であれば、改めて強制競売の申立てをすることになり、抵当権者は合抹後の建物に抵当権の設定登記をするか、債務名義を取得した上で強制競売の申立てをするほか方法がない。
 競売開始決定後、目的不動産の現状が、登記簿上の表示と多少のそごがあっても、手続の進行を妨げる事由とはならかいが、その相違が不動産の同一性を失わせる程度であれば、競売手続を取り消さなければならない。
 建物滅失の事実は、現況調査報告書、評価書、関係人提出の証拠資料、あるいは登記官の不動産登記法四九条による差押登記嘱託書の却下処分等によって、執行裁判所に明らかになる。
 土地の場合は、原則的には滅失という概念は存在しないが、登記されている土地が海面下に没し、それが一時的なものでなく、海面となってしまった場合の如きは土地所有権は認められないとされている。
 目的土地が山奥等に存在し、そのおよその所在場所さえわからないような場合には、公簿上は特定されていても、所在不明のまま競売手続を進めることは妥当ではないので、この規定を類推して競売手続を取り消すべきです。
 ただ、目的物が山林や原野等の場合には、隣地との境界が判然としない例が多々あり得るが、このような場合には、評価人は、登記簿上の記載に基づき概測による測量をした上で、範囲不明確の事情を売却公告に記載するなどして売却手続を進めるべきで安易に目的物の所在不明として手続を取り消すべきではない。宅地造成工事により、各土地の境界が明確でなくなった場合でも、公簿上は特定されており、競売手続上目的物を特定することができないものでないとした裁判例があります。
 差押えの登記をするまでの間に第三者に所有権移転登記がされた場合、不動産の強制競売を申立てるためには、債権者は当該不動産が債務者の所有であることの証明をしなくてはならないが、その証明があっても、差押えの登記をするまでの間に、第三者に所有権の移転登記がされているときは、この所有権の処分は差押えの登記前だと、差押債権者はその処分に対抗できないので、この場合は、執行裁判所は強制競売手続を取り消さなければならない。このような事実は、登記官から差押登記の嘱託について却下処分があってはじめて執行裁判所に明らかになることが多い。設定登記を経ていない抵当権に基づく競売の場合にも、同様のことがいえる。
 設定登記のされている抵当権に基づいて競売が行われる場合には、抵当権者は抵当権設定登記後の権利者に対しては、抵当権を対抗できるので、当該目的不動産の所有権が移転されても手続を続行することができる。
 所有権移転請求権保全の仮登記について本登記がされた場合、強制競売の場合は差押え登記前、抵当権実行による競売の場合は、申立人の抵当権設定登記前になされている所有権移転請求権保全の仮登記について、その後本登記がされたときは、仮登記による順位保全の効力によって、差押債権者又は抵当権者は、仮登記権利者の本登記に対抗できなくなるので、差押えは他人所有の不動産に対してなされたことになり、差押えの登記及び抵当権設定登記は抹消される。したがって競売手続は許すべきでないから、執行裁判所は、競売手続を取り消さなければならない。
 破産、和議、会社更生の開始後会社財産の保全処分として仮差押又は仮処分の登記がある不動産に対しては強制執行は禁止されているから、登記の存在は本条の移転を妨げる事情に該当する。
 差押えの登記又は競売を申立てた抵当権者の抵当権に優先する処分禁止の仮処分の登記がある場合に、仮処分債権者が本案訴訟における勝訴の確定判決によって、仮処分債務者のためになされた所有権取得登記の抹消と、仮処分債権者への所有権移転登記手続がされると、他人所有の不動産に対する競売となるので、執行裁判所は、競売手続を取り消さなければならない。
 したがって、実務では、処分禁止の仮処分登記のある不動産に対する競売の申立については、競売開始決定をし、差押えの登記をすませた段階で競売手続を事実上中止し、仮処分又は本条訴訟の結果を待つという態度をとっている取扱いが多い。
 不動産が滅失により競売手続を取り消すことのできる時期は、買受人が代金を納付するまでと解される。すなわち、買受人が代金を納付すれば、競売不動産の所有権は買受人に移転するので、その後は不動産の滅失等の事由については、民法の担保責任によって解決すべきであるからです。買受人が代金を納付した後に、不動産が代金納付前に滅失している事実が判明したときは、配当の実施により手続を取り消す余地がなくなった場合を除き、手続は取り消すべきです。この場合、代金又は保証金は買受人に返還することになる。
 取消しの決定は、差押債権者、債務者、所有者に送達する。この決定に対し不服のある者は執行抗告をすることができる。この取消決定は、手続に関与している者に大きな影響を与えるからです。また、この取消決定は、執行手続を終了させる処分であるから、確定しなければその効力を生じないとされている。
 競売手続の取消決定が確定したときは、裁判所書記官は、差押えの登記の抹消を嘱託しなければならない。この嘱託に要する登録免許税その他の費用は、差押債権者が負担することになる。

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