差押不動産の売却のための保全処分

 債務者、所有者は、差押え後も差押不動産を通常の用法に従って使用し、収益する権利の行使を妨げられないとされています。したがって、債務者、所有者は売却許可決定があり、買受人が代金を納付するまでは、当該不動産に居住し、又は他人に賃貸して賃料を受領し、あるいは耕作して収穫を得ることができる。しかし、差押えがされた以上、債務者は善良な注意義務をもって目的不動産の管理にあたるべきものと解されています。
 ところが差押え後、債務者等の作為又は不作為によって、目的不動産の価格を著しく減少する行為又はそのおそれのある行為をする場合について旧法はこれを阻止するための何らの規定はなくこのような場合抵当権実行による競売については、抵当権の効力によりこれらの行為を禁止する仮処分を求めることができるとされていましたが、一般債権者は、仮処分の申立てをすることができないとするのが一般の見解でした。民事執行法は差押債権者その他の利害関係人を保護するために執行裁判所は、差押債権者の申立てにより債務者等に対し、これらの行為を禁止し又は一定の行為を命ずることができるとの規定を設けたのです。
 この規定の原案は、債務者以外の占有者にも保全処分命令を発することができるとされていたのですが、国会において債務者(所有者)に対してのみ命じ得るものと改められたのです。修正の理由は、差押手続中、買受人が所有権を取得する以前に、占有者の占有権原の存否が未確定のまま、これらの占有者を排除して不動産を執行官の占有に移す等の保全処分を認めることは、不動産に対する物理的価格減少行為を防止する法的手段は他に幾多あることを考慮すれば、正当な権原による占有者の立場の配慮に薄く、債権者の保護に厚いきらいがあるというのです。

スポンサーリンク

 禁止命令又は作為命令の発令の要件は債務者、所有者が目的不動産の価格を著しく減少する行為をするとき又はそのおそれがある行為をするときです。
 競売の目的不動産に対し、債務者等の使用収益権を許す以上通常の利用に伴う価格の減少というのは当然であるからやむを得ないが、それを超えて不動産の価格を著しく減少する行為をするとか又はそのおそれのある行為をするときには、執行裁判所は、申立てによりこれらの行為を禁止し又は一定の行為(原状回復など)を命ずることができる。
 買受人が代金を納付するまでの間、担保を立てさせ又は立てさせないで、債務者等に命令を発することができる。担保については債務者に対して命ずる作為、不作為が、債務者が本来なすべきこと又はなさざるべきことであれば、原則としで無担保で発令してよいであろう。そうでない場合は、命令の内容によって仮処分の場合における立担保を参考として定めることになる。
 この担保は、禁止命令等によって相手方に生ずることあるべき損害を填補しようとするためのものですが、金銭等を供託する場合には、発令裁判所又は執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することになります。
 担保を立てたことは執行裁判所に供託書正本の写しか又は供託証明書を提出して証明します。支払保証委託契約の方法による場合は、同契約が締結された旨の証明書を提出する。
 担保の取消しについては、買受人が代金を納付し、所有権が移転したことにより保全処分の執行は終了するが、それによって担保に係る損害賠償請求権が不存在と確定することにはならないから、代金の納付によっては担保の事由が止んだことにはならない。したがって民事訴訟法一一五条二項又は三項によって処理することになる。
 債務者が目的不動産につき、例えば暴力団関係者、競売ブローカー等と、短期賃貸借契約を締結した如く装って適正な価格での売却を妨げようとする場合に、これがここでいう保全処分の対象となるかどうかを検討する。債務者は前述のように差押えがされた後も、通常の用法に従い不動産の使用、収益は妨げられないのですが、当該賃貸借が、本来の使用、収益を目的としたものではなく、執行を妨害する違法、不当な意図のもとになされたのであれば、不動産自体の客観的価値は減少するわけではないが、適正価格での買受中出が得られなくなることは十分に考えられるところです。したがって、この場合は「著しい価格の減少」に該当するものとして、保全処分の対象となるものと考えられる。この場合は債務者に対し、占有者を退去させるべき命令を発し、もし、退去させなかったときは執行官保管の命令を発することも考えられる。しかし、執行妨害の立証は相当困難であろうし、仮りにこの点の立証ができたとしても、債務者が当該不動産から退去しているとすると、現に占有している第三者に対しては、本条に基づく命令は発することができない。抵当権実行による競売の場合には、抵当権者は民法三九五条但書により賃貸借契約解除請求の訴えを活用できるのであるが、訴訟は時間がかかり、その勝訴判決確定までに買受人から代金の納付がなされれば、抵当権者は訴えの利益なしとして敗訴するようなことにもなるので、この訴訟の実効性に問題があります。今後これらの問題について実務の運用面において保全処分の適切な活用を期待するものです。
 申立期間の命令は、差押債権者保護のための規定であるから、開始決定後買受人が代金を納付するまでの間、すなわち売却手続が終了するまでに申立てをしなければならない。
 禁止命令等の申立てをすることができる者は、差押債権者に限られ、配当要求の終期後に二重執行の申立てをした債権者は、この申立てができない。二重開始決定がされている場合、先行の競売申立債権者の申立てによりなされた保全処分は、先行事件が取り下げ又は取り消されたときはその効力を失うので、この場合後行事件の申立債権者は、保全処分の効力を維持したときには自ら申立てをすべきです。
 相手方は、差押え不動産につき、その価格を著しく減少する行為をし又はそのおそれのある行為をする債務者、所有者と、その占有承継人である。使用人、家族等の債務者等の機関又はその占有補助者がここに掲げる行為をし又はそのおそれのある行為をする場合も債務者等を相手方となし得る。差押え後の占有承継者は、債務者等の占有補助者と同視してよい。債務者等以外の不動産の占有者(不法占有者や、差押え前の占有者)は相手方となし得ない。
 差押不動産を占有している者が、いわゆる占有屋というような者であれば債務者等に対し、その者を退去させる旨の命令を発することも可能です。
 債務者等以外の第三者が占有していて(賃借人等)、差押え中の不動産につき著しい価格減少行為をする場合には、債務者等はその者に対し必要な措置を採ることができるのであるが、債務者等がその権利を行使しない場合には、差押債権者は、債務者等に代位してその行為を禁止する民訴法上の仮処分を求めることができる。
 執行裁判所は、売却のための保全処分の申立てがあったときは、口頭弁論を開き又は開かないで決定により裁判する。必要があると認めるときは、利害関係者その他参考人を審尋することができる。
 申立てが不適法であれば却下する。申立てが認容されるときは、買受人が代金を納付するまでの間、債務者等の行為を禁止し、又は一定の行為をなすべき命令を発する。いかなる行為を禁止し、又はいかなる行為を命ずるかは、執行裁判所の裁量に委ねられる。必らずしも申立ての趣旨に拘束されない。債務者、所有者が執行の目的家屋を立去り、施錠のない空家の状態で放置しているような場合に、それが不動産の価額を著しく減少するおそれがある行為に当たると認められるときは、保全処分の主文は「施錠して管理せよ」という内容が考えられる。保全処分については、担保を立てさせ又は立てさせないで命令を発することができる。
 この命令は、債務者、所有者へ送達することによって効力を生ずる。この命令に対しては執行抗告をすることができる。
 債務者等が、禁止命令又は作為命令に違反したときは、執行裁判所は、禁止命令等を申し立てた者の申立てにより、買受人が代金を納付するまでの間、担保を立てさせて、債務者等に対し不動産に対する占有を解いて執行官に保管させるべきことを命ずることができる。この立担保の基準は、執行官保管の仮処分における基準が参考になるでしょう。
 禁止命令又は作為命令は、目的不動産の価値保全のためになされるものであるが、命令によっては必ずしも実効性があがらない場合も起り得る。このような場合には、債務者等の占有を取り上げ、執行官の保管に委ねることを命ずることが認められているが、もともと債務者等は目的不動産について、売却手続終了までは、使用、収益権能が認められているのであるから、民事執行法は、執行裁判所が債務者から不動産占有を取り上げるべき執行官保管命令を発することができるのは、次の条件を具備した場合に限られる。
 (1) 債務者等が民事執行法五五条一項の規定により発せられた禁止命令等に違反したこと。
 (2) 禁止命令等の申立てをした同じ差押債権者の申立てがあること。
 したがって、禁止又は行為命令を発せずに、最初から執行官保管を命令することはできない。また、あらかじめ、その違反あることを条件として発することも許されない。この場合差押債権者は禁止命令等に違反した事実を証明しなければならない。但し債務者、所有者が執行の目的家屋を施錠せず放置したまま同家屋から立去り、行方不明の場合には、法五五条一項の禁止命令等を発しても実効性のないことが明らかであるから、このような場合には、禁止命令等の手続を経ずに直ちに執行官保管命令を発することができると解すべきである。
 禁止命令等が発せられた後に、債務者等から賃借している占有者が、目的土地の現状を変更するとか、建物を取毀して新築工事に着手するなどの行為をする場合には、それは債務者等自身の命令違反と解されるので、本条により目的物を執行官保管にして工事を禁止することを命ずることができる。
 申立期間は執行官保管命令の規定は禁止命令等の規定と同様に差押債権者その他の利害関係人保護のために設けられたものであるから、売却手続の終了までの間しか申し立てることができない。したがって、この命令の効力も買受人の代金納付までしか継続せず、買受人が代金を納付したときはその効力を失う。その場合は執行官は当該不動産の保管を解くことになるが、最高価買受申出入は、別に保全処分の申立てをすることができることとされているので、執行官が保管を解く前に、最高価買受申出人又は買受人のために保全処分として執行官保管が命ぜられた場合は、執行官は以後最高値買受申出人等のために不動産を保管することになる。その保管中に買受人に対する引渡命令による執行の申立てがあれば、執行官は、保管中の不動産を買受人に引き渡すことになる。
 この場合、代金を納付した買受人は、債務者に対し当該不動産の引渡しを請求することができるのであるから、執行官が保管中の不動産に対しては、買受人が代金を納付したことの証明書を提出すれば執行官は当該不動産を直接買受人に引渡すことができると解する余地があるとする見解があるが、執行官保管の性質から考えると、執行官はいったん保管を解いた後、改めて買受人のために引渡執行をすべきです。
 執行官保管を命ずる決定は、債務者に送達する前であっても執行をすることができる。この点は、仮処分の執行と同様です。また、この決定は仮処分と同じように、執行にあたり執行文の付与を受けることを要しないが、申立人に告知された日から二週間を経過したときは、執行力を失い、執行ができなくなる。
 執行官保管命令に対し不服がある者は、執行抗告ができる。
 禁止命令又は作為命令、執行官保管命令等を発令した後に、発令当時認められた事実関係に変更を生じたとして差押債権者又は債務者から、事情変更の申立てがあったときは、執行裁判所は、その申立ての内容により、右命令を取り消し、又は変更する命令を発することができる。この取消し、変更命令に対しては、執行抗告ができる。取消し、変更命令の効力が、即時に生ずるのでは、不服申立ての余地がなくなってしまうので、確定しなければその効力を生じないとされている。
 保全処分命令が発令されても、債務者がこれに従わないときは、差押債権者は、禁止命令又は作為命令に執行文の付与を受けて、命令の内容が、債務者以外の者がすることができる性質のものであれば、債務者の費用をもって第三者にさせる旨の裁判所の授権決定を得て執行する。
 命令の内容が代替執行ができないものであれば、間接強制の方法により行われる。この命令の執行については、執行官保管命令のような執行期間の定めはないが、買受人の代金納付の時までに限り効力を有する。その以後に執行することはできない。
 執行官保管命令については、執行官は、差押債権者からの申立てにより、不動産の引渡し等の強制執行に準じて執行する。ここに不動産引渡しの執行に準じて行われるとは、執行官保管命令の執行は不動産引渡しの強制執行そのものではないからです。すなわち民事執行法一六八条一項による強制執行は、目的物に対する債務者の占有を解いて、債権者にその占有を取得させる方法により行われるのであるが、命令の執行は、債務者の占有を解いて、執行官が目的物の占有を取得するのみで、債権者にその占有を得させることはないから、民事執行法一六八条一項の規定する強制執行とはいえない。したがって強制執行に準じて行われるにすぎないとされているのです。そうだとすると執行官保管命令は、執行抗告はできるとしているが、民事執行法二二条三号による債務名義そのものではなく、「債務名義的」なものであり、又は仮処分命令に準ずるものであるということになる。この執行は、債務者の占有補助者が占有する不動産にっいても行うことができる。執行妨害の目的をもって、債務者が暴力団やいわゆる占有里を居住させていると認められる場合には、これら占有者は、債務者の補助者として目的不動産を占有するものであるから、この執行官保管命令によって排除して執行官が保管することができる。この命令の執行は、前述のように決定が申立人に告知されてから二週間以内にしなければならない。執行官保管命令の執行については、仮差押え及び仮処分の執行に準ずるものであり、決定が相手方に送達される前であってもすることができる。また当事者の承継があった場合を除き、執行文の付与を要しないと解される。
 執行官は、当該不動産に執行官保管の旨を公示し、これに対する立入りを禁止し、建物の場合には施錠するなどして保管する。また保管に必要な行為をすることもできるので、適当な者に不動産を保管させ、現場維持のために必要な管理行為を命ずることもできる。執行官保管命令を執行した場合には、執行官は民事執行規則一三条四項、一項、ニ項に則り調書を作成しなければならない。
 保全処分命令により執行がされている場合に、競売申立ての取り下げ又は競売手続が取り消されたときは、執行機関は、保全処分命令が効力を失ったことを証する裁判所書記官作成の文書の提出を得て執行処分を取り消すことになる。
 民事執行法五五条一項、若しくは二項の申立てに要した費用、その決定の執行に要した費用、必要な保存行為の費用は、差押不動産の価値保存のため、いわば全債権者の利益のために支出されたものであるから、その不動産の競売手続では、共益費用となる。したがって、差押債権者は、これらの費用を売却代金から優先して償還を受けられることになるので、配当期日前に裁判所からの催告に基づいて提出する債権計算書にこれらの費用を記載して提出しなければならない。差押債権者からこの計算書の提出がないと、執行裁判所には執行記録によってもその内容が判らない場合があるので、配当を受けられないこともある。先行事件が取り下げ又はその手続が取り消された場合に、先行事件の申立債権者のした保全処分の申立、その執行に要した費用は、申立債権者が配当要求の終期前に費用について民法三〇六条一号の先取特権が成立するとして配当要求をした場合は、それが共益費用に当たるときは配当にあずかれる。

お金を借りる!

不動産に対する強制執行/ 不動産執行の方法/ 強制競売の申立/ 債務名義に係る請求債権の一部について執行を求めるとき/ 競売目的不動産上の権利/ 仮登記権利者の民事執行上の取扱/ 強制競売の申立てに対する審理/ 強制競売開始決定に対する異議/ 差押えの効力/ 仮差押えの処分禁止の効力/ 競売開始決定後の差押えの登記/ 競売開始決定後の債務者の競合/ 競売開始決定後の配当要求/ 競売不動産の売却の準備手続き/ 競売不動産の売却の現況調査/ 競売開始決定後の不動産の評価/ 差押不動産の売却に伴う権利の消滅と引受/ 差押不動産の法定地上権/ 差押不動産の最低売却価格の決定/ 差押不動産の余剰を生ずる見込みのない場合の措置/ 差押不動産の売却のための保全処分/ 差押不動産の地代等の代払の許可/ 不動産の滅失等による競売手続の取消し/ 差押不動産の売却手続き/ 差押不動産の一括売却/ 差押不動産の売却手続き/ 差押不動産の入札/ 差押不動産の入札の実施/ 差押不動産の開札後の手続き/ 期日入札調書の記載事項/ 競売不動産の買受けの申出の保証/ 競売不動産の期間入札/ 競売不動産の特別売却の実施/ 競売申立ての取下げ/ 競売不動産の売却決定の手続き/ 競売不動産の売却不許可事由/ 競売不動産の売却の終了後に執行停止の処分があった場合/ 競売不動産の超過売却となる場合の措置/ 競売不動産の売却許可決定/ 競売不動産の売却許否の決定に対する執行抗告/ 競売不動産の売却許可決定後の手続き/ 競売不動産の代金納付による登記の嘱託/ 競売不動産の買受申出人又は買受人保護の手続き/ 競売不動産につき最高価買受申出人又は買受人のための保全処分/ 競売不動産の引渡命令/ 競売の配当と弁済金の交付/ 競売の配当を受けるべき債権者の範囲/ 競売の弁済金の交付/ 競売の配当手続/ 競売の配当意義の訴え/