差押不動産の余剰を生ずる見込みのない場合の措置

 執行裁判所は、評価人の評価に基づいて最低売却価額を定め、換価手続を進めることになるのですが、その定められた最低売却価額をもって、執行費用のうちで共益費用であるものと、差押債権者の債権に優先する債権の額の合計額を弁済して剰余を生ずる見込みがないと認めるときは、裁判所はその旨を差押債権者に通知し、その結果、場合によっては執行手続が取り消されることがあります。これは旧法と同じく、他人の財産を換価しても自己の債権について何ら得るところがないのみでなく、無益な手続と費用と日時を費すに過ぎないことになるし、優先債権者や債務者にとっても競売の時宜を得ない等のため不利益をもたらすこともあるところから、このような無益、且つ、無意味な執行は許すべきでないとして設けられた規定です。
 旧法下では、担保権の実行による競売には、民訴旧六五六条の規定は準用ないし類推適用すべきでないというのが判例・通説とされていましたが、無益執行を許さないとすることは民事執行の基本原則とされ、民事執行法六三条の規定は担保権の実行としての競売にっいても準用されることとなったのです。
 したがって、今後は申立債権者の債権に対する弁済の可能性がない場合には、その手続は取り消すことになるので、後順位の担保権者は競売を実施することができない場合も出てくるでしょう。差押不動産が数個ある場合には、各不動産ごとに無剰余の判断を行うのが原則です。しかし、共同担保物件が同時に競売の羽的物である場合には、全物件の最低売却価額を合計した金額によって無剰余の判断をすることになります。
 一括売却の場合には全体か二個の不動産と考えて無剰余の判断をすればよい。売却を数回実施したが買受人がなく、そのために執行費用が増大した場合には、その時点で無剰余の判断をし、法六三条の手続を採ることになります。
 なお、法六三条に違反してされた売却許可決定は取消されるべきかどうかについて、法六三条の手続を無視したときは、同法七一条で不許可になるのはやむをえないのであり、一応法六三条の手続を経て手続を進めたが、結局無剰余であった場合とは異なるとする見解があります。これに対しては、法六三条に違反しても手続が取消されず、最高価買受申出人が決定するに至ったときは、売却をそのまま認めてしまうのが手続法上の観点のみからすれば、それが合理的であるとする見解と、法六三条は優先債権者の保護を目的とした規定であるから、同条に定める手続が行われないまま競売手続が進行し、売却許可決定に至ったとき、これによって権利を害されるのは優先債権者であり、所有者、債務者は何らその権利を害されるものではありません。したがって売却許可決定に対し優先債権者の不服申立てがない限りこれを取消すことはできないとする裁判例があります。

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 ここにいう差押債権者とは、最初の強制競売の開始決定に係る差押債権者をいう。二重開始決定がされた後に先行の競売申立てが取り下げられたとき又は先行の開始決定に係る競売手続が取り消され、後の競売開始決定に基づいて手続が続行されるときは、後の競売開始決定に係る差押債権者をいうのであり、また、民事執行法四七条四項の規定により手続を続行する旨の裁判があったときは、その続行決定を受けた差押債権者をいいます。
 差押債権に優先する債権とは、今後見込まれる執行費用のうちの共益費用、自己より先順位の抵当権、不動産質権及び担保目的である仮登記の被担保債権、配当要求をした一般先取特権の披担保債権、交付要求をした法定納期限が優先する租税債権等であり、執行記録上明らかな債権のみに基づいて判断することになる。抵当権の被担保債権額の算出方法は、届出があれば届出額により、届出がなければ登記簿上に記入してある債権額と、民法三七四条の制限に従った最後の二年分の約定利息及び損害金を合計した額により剰余の存否を判断します。
 担保目的である仮登記の場合は、執行裁判所に、催告に基づき配当要求の終期までに、担保仮登記の旨、債権の存否、原因、額を届出ることになっていますが、その届出額により登記の順位に従って優先債権額を計算する。この催告に基づく届出がないときは、債権者は売却代金から配当又は弁済金の交付を受けることができないのであるから、優先する債権は不存在として剰余の有無を判断してよい。
 根抵当については、根抵当権者から債権届出がない場合は、債権極度額を披担保債権の頓とみなして判断してよい。抵当権の登記が仮登記の場合でも本登記と同様に取り扱うべきである。数個の不動産を競売する場合は、各別の不動産について剰余の有無を判断することになる。
 この場合個々の不動産の最低売却価額では無剰余となり、且つ、各不動産に関連性がないため一括売却をすべきでないときでも、不動産の全部を個別売却することにより剰余を生ずる見込がある場合には、無剰余競売とはなりません。
 差押債権者の債権に優先する権利者が、差押債権者である場合、差押債権と披担保債権との同一性が認められるときには、本条の適用はないと考えてよい。しかし債権の同一性がない場合については本条の適用があるかどうかについて議論がある。この点について債権者は担保権の実行をしないでも債権の弁済を受けるために競売手続を進める利益を有するから、民事執行法六三条の適用がないとする見解がしょうが、このような場合には強制競売なすべき利益がないし、同条は優先権者が差押債権者である場合を特に除外したものとは解されないから同条を適用して手続を進めるべきです。これを例を挙げて説明すると、最低売却価額一、〇〇〇万円の不動産について、同一債権者が債権額一、〇〇〇万円の一番抵当権と、三〇〇万円の二番抵当権を有し、二番抵当権に基づいて競売申立てをした場合には、同一債権者であることを考慮に入れず、申立てに係る担保権の被担保債権を基準として剰余の有無を判断して法六三条を適用すべきです。
 先行事件が取り下げ又は取り消されたとき、あるいは停止に基づく続行の裁判等により後行事件により手続が続行される場合には、改めて優先債権を判断して処理することになる。この剰余の有無は配当要求の終期の時点で判断されることになり、それ以後の被担保債権の減少などは配当実施の段階で調整することになります。
 裁判所は、最低売却価額と、手続費用の額及び優先債権とを比較して、後者の方が大きく、競売による売却代金をもって弁済しても剰余を得る見込みがないと認めるときは、その旨を差押債権者に通知する。通知書は、じ後の法律関係を考慮して執行官送達もしくは特別送達郵便によるべきです。
 優先債権等の見込額の通知を受けた差押債権者は、通知を受けた日から一週間以内に、優先債権の額が、不存在又は消滅若しくは減額等により、届出額や登記簿上の額より少なく無剰余とならないことを証明するか、又は優先債権の額を超える額を定め、売却手続において申出願を超える買受けの申出がないときは、差押債権者自らが申出願五〇一万円以上で不動産を買受ける旨を申出、且つ申出額に相当する保証を提供すれば、執行裁判所は、売却期日を指定して手続を続行する。この手続をとらなければ、競売手続は取り消されることになる。一週間という期間は、いわゆる訓示期間と解されているので、一週間を過ぎても取消決定が確定するまではこの申出、保証の提供は可能です。
 売却期日に差押債権者の中出願を上廻る願による買受申出人があり、売却許可決定が確定し代金が納付されたときは、差押債権者の提供した保証は返還されます。いい換えるとそれまでは、差押債権者は保証の返還を求めることはできないのです。差押債権者の申出た願を上廻る額の買受けの申出がないときは、差押債権者に対して売却許可決定手続がなされます。売却許可決定が確定すると、差押債権者の提供した保証が代金に充てられます。保証が有価証券である場合は、執行裁判所は、執行官にこれを売却させ、その売得金が提出されたときは、換価に要した費用を控除した残額が代金に充てられます。もし代金に不足を生じた場合は、執行裁判所は差押債権者に対し不足金の納付を命ずる。
 差押債権者は、売却期日が開かれる日時までは、買受申出の撤回をすることができる。撤回がされたときは、競売手続は取り消されるので、差押債権者は保証の返還を求めることができる。具体的な売却実施がなされた後には、差押債権者は買受けの申出をした者と同視される地位に立つから、手続の安定上もはや撤回は許されないと解されている。しかしこのような場合には、実務上は競売の申立ての取下げがなされるであろう。取下げをするには、買受人は差押債権者自身であるから、他の同意を要せず、自由に取り下げることができます。
 目的不動産が農地である場合には、買受資格が制限されており、差押債権者が、これに該当し、買受資格がない場合には、差押債権者は民事執行法六三条二項一号による買受中出をすることができない。この場合には、差押債権者において優先債権の願を超える申出願を定め、その申出願より現実の売却における買受けの申出願が低いときには、その差額を負担する旨を中出、差押債権者の買受申出願と最低売却価額との差額一〇一万円に相当する保証を提供すれば、売却手続を進めることになります。
 この売却手続において、四五〇万円で売却され、売却許可がされたときは、買受申出願五〇一万円と、四五〇万円との差額五一万円が現実の保証となり、差押債権者が負担することになります。この負担すべき差額は、買受人が代金納付をしないため返還を請求することができない保証と同様に、売却代金に組み入れられ、配当財団を組成する。そして五一万円を超える保証五〇万円は差押債権者に返還されることになる。保証が現金以外の有価証券で提供されているときは、先に述べたように執行官により換価が行われます。
 差押債権者が買受人になることができない場合において、売却を実施しても最低売却価額を超える価額の買受けの申出がなかったときには、競売手続を取り消すこととされています。それ以上手続を続行することは無益なここだという考え方でしょう。この場合差押債権者は、提供した保証の返還を請求できる。売却を実施した結果、最低売却価額を超える買受けの申出があり、売却許可決定が確定したが、買受人が代金を納付しない場合は、売却期日に買受申出人がなかったと同じことになるから、競売手続は取り消さなければならないとされています。この場合は、結局競売手続が存在しなくなったわけであるから、代金を納付しなかった買受人は、保証の返還を求めることができます。
 法六三条二項による買受けの申出及び保証の提供をした者が、入札期日等において買受けの申出をするときは、法六六条、規則三九条により保証の提供をしなければならない。法六三条二項による買受けの申出及び保証の提供と、入札期日等における買受けの申出とは別個の手続であるからです。
 民事執行法は、執行裁判所が売却期日を開いても買受人を得ることができない場合でも、一旦定められた最低売却価額は原則として低減していくことは予定していない。しかし、不動産価額について事情の変更があり、そのために最低売却価額を変更する必要があるときは、執行裁判所は、これを変更することができるとされています。そこで、変更の結果剰余を生じなくなった場合には、その段階で民事執行法六三条の手続をすることになります。
 競売手続の取消決定に不服のある者は、執行抗告ができる。この決定は、重大な執行処分であるから、確定しなければその効力を生じない。
 なお、執行裁判所が、無剰余であることを看過して売却期日を指定した場合には、これにより不利益を受ける関係人は、執行異議の申立てをすることができる。
 競売手続の取消決定が確定したときは、裁判所書記官は差押えの登記の抹消を嘱託しなければならない。この嘱託に要する登録免許税、嘱託書郵送料等の費用は、差押債権者が負担することになる。
 無剰余の場合の保証の提供方法について、民事執行規則三二条一項では、金銭、執行裁判所が相当と認める有価証券、銀行等との間で支払保証委託契約が締結されたことを証する文書を提出するという三種の方法を規定している。これら三種の方法は併用することも許されます。
 金銭は差押債権者が執行裁判所に出頭して直接提出する方法と、執行裁判所の預金口座に振り込む方法とがあります。
 相当と認める有価証券の種類には法規上の制限はないが、保証としての性質上、換価が確実と見込まれるもの、一般的に市場価額の変動の少ないものであることが要求されます。最も適当なものとしては、国債、公、社債、地方債、証券取引所に上場の優良企業の株券などである。このほかに規則四〇条一項二号に規定されている銀行等の自己宛小切手、同項三号に規定されている銀行等の送金小切手による保証の提供方法ですが、これらは券面額での換価が確実、且つ容易であるから、無剰余の場合の保証としても適当です。差押債権者が、有価証券を特定して保証とすることの裁判を求めた場合には、執行裁判所は、その種類・内容等を検討し、保証として認めるか否かの判断をする。変動が少ないとして保証とすることを認めても、提供時の市場価額より換価時の市場価額が下落する場合も考慮し、換価費用の控除の点も計算して不足の生じないようにすべきです。
 国債及び地方債などは、額面の六割ないし八割、株券は株価の変動の少ないもので、市価の五割ないし八割を担保額とするのが、従来からの実務の取扱いです。
 この保証は、保証を提供しようとする差押債権者が、銀行又は保険会社との間に、銀行等が差押債権者のために、保証の額に相当する金銭を、執行裁判所の催告があれば納付することを内容とする契約を締結し、その契約の締結されたことを証明するための文書を執行裁判所に提出することによる保証の提供方法です。この場合の契約締結の文書の提出が保証の提供方法であって、民事執行規則一〇条の支払保証委託契約の場合と異なる。
 証明文書は、当該銀行又は保険会社が発行する文書であることを要する。
 支払保証委託契約は、「期限の定めのない」ものでなければならない。執行裁判所が納付の催告をするまでに契約が終了するような内容のものでは、保証とすることはできないからです。期限は始期も終期も定めることはできないが、一定期間ごとに終期を定め、終期の到来したときは、自働的に期間が延長するという定めをしたものは、実質的には期限の定めがないに等しいので、このような契約は認められる。また、契約締結の証明文書を提出するまでは、債権は発生しない旨の約定も認められる。保証が提供された時点では債権が発生していることとなるからです。差押債権者が買受人にならなかったときや、民事訴訟法一一六条一項の保証の変換がされたときは、契約の効力が失われるとの約定は、保証の性質上当然のことを約定したものであるから、有害的約定ではないとされています。
 支払保証委託契約は、第三者のためにする契約の性質を有すると解されており、したがって第三者が受益の意思表示をした時に、第三者の権利が発生し、以後は、権利を変更又は消滅させることはできないところ、無剰余の場合の保証である支払保証委託契約は、執行裁判所(国)が第三者であるから、執行裁判所の受益の意思表示については、支払保証委託契約による保証の性質上、契約締結の証明文書が提出された時点において、常に受益の意思表示がされたものと解すべきで、以後は、執行裁判所の債権を変更又は消滅させることはできないと解されています。
 この点は民事執行規則一〇条の支払保証委託契約とは異なります。
 保証として提出された金銭は「保管金」に、有価証券は「保管有価証券」にあたる。支払保証委託契約締結の証明文書は「民事保管物」に準ずるものと解されています。この証明文書は、権利行使の際に銀行又は保険会社に提出することになるし、差押債権者が買受人にならなかったときや、保証の変換がされたときは、差押債権者の申出によりこれを返還する取扱いをすることになるからです。
 保証が金銭又は銀行等の自己宛小切手、送金小切手のように金銭に準ずべきもので提供された場合は、差押債権者が買受人になったときには、代金に当然充当される。差押債権者が買受人になれない場合で買受けの申出があったときには、差押債権者の買受申出願と買受人の支払う代金との差額があれば、それに相当する部分が売却代金に組み込まれ、残額は差押債権者に返還される。保証が有価証券又は支払保証委託契約締結の方法により提供された場合は、一差押債権者が買受人になったときには、差押債権者は、代金納付期限までに代金を納付しなければならず、代金の支払がないときは、保証を換価し、換価費用を控除して代金に充当する。もし余りがあれば差押債権者に返還する。差押債権者が買受人になれない場合で買受けの申出があったときには、保証を換価し、換価費用を控除して、売却代金に充当し、残額は差押債権者に返還する。ただし支払保証委託契約締結の方法による保証の場合は、買受申出願と売却代金との差額のみを納付するよう催告するので、残額を返還する問題は起らない。
 換価については、民事執行規則五七条及び五八条に基づいてなされます。
 無剰余の場合の保証の変換については、保証を提供した差押債権者の申立により、執行裁判所の保証の変換決定によってなされます。すなわち、提供された金銭又は有価証券を、他の有価証券又は金銭と交換するとか、あるいは支払保証委託契約締結の方法に変換するような場合又は支払保証委託契約を、金銭又は有価証券による提供の方法に変換するがごとき場合です。

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