差押不動産の最低売却価格の決定

 執行官による現況調査が強化され、更に裁判所の審尋により不動産の権利関係の把握の正確が期され、その上に立って評価人の評価が適切に行われれば、不動産の現況及び権利関係を確認することができるし、執行裁判所は、不動産の評価についての専門的知識を得られたわけであるから配当要求の終期到来後すみやかに、評価人の評価に基づいて最低売却価額を決定することになります。最低売却価額というのは、競売の場合に売却を許可する最低の価額です。これは不動産の適正な価額を維持することを目的とし、債権者、債務者の利益を害することなく、併せて比隣の不動産の価額へも悪影響を及ぼす危険を防止しようとするにあると解されています。最低売却価額を定めるについて、評価人の評価は客観的に妥当なものとして極めて重視されており、旧法における最低競売価額の決定には、鑑定人の評価を斟酌して定められることとなっていたのとは若干の相違があるのです。しかし、だからといって民事執行法においては執行裁判所が評価に拘束され、これと異なる価額を決めることができないというものではありません。例えば、評価人の評価の前提となった事実認定、その他法律上の権利関係について誤解があるような場合とか、評価書が提出された後に、土地所有者から建物収去請求が起された場合、第三者が競売建物を賃借していたが、その後立退いたというような場合には、執行裁判所は独自の判断において評価書の評価を修正して最低売却価額を決定します。なお、評価では占有を伴わない短期賃貸借について考慮されていますが、最低売却価額の決定についてはこれを考慮に入れない場合には修正することがあります。短期賃貸借など権利の引受けとなるものについて真偽不明の場合には、最低売却価額は引受けになるものとして決定するのが相当です。買受人に不測の損害を与えないためです。
 しかし、このような修正例は余りないと思われます。というのは、実務の実際は、評価の内容について疑問点があれば、評価人は裁判所と打合せをし、裁判所も評価人の意見を聴いて疑問点をただすこととしており、提出された評価書は裁判所の認識と一致するような運用がされるからです。評価書が提出された後に、修正をしなければならない場合に、執行裁判所は必要とあればその理由を書面にして評価書に添付する。理由書が作成されたときは評価書と共に一般の閲覧に供することができます。もっともこの場合には、現況調査報告書の追加補充という運用が考えられます。このようにして決定された最低売却価額は、当然に取引価額を形成するものです。

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 競売の目的不動産が数個ある場合は、各不動産ごとに最低売却価額を決定します。一括売却の場合には、権利関係が同一で、配当手続上混乱を生じないときには一括して最低売却価額を定めればよい。しかし、権利関係が複雑であるときは、各不動産ごとの最低売却価額と、一括した場合の最低売却価額を定めなければなりません。例えば、土地と、その地上の建物が一括売却のときは、建物は法定地上権付の価格、土地については法定地上権の負担のある価格による最低売却価額と、それに一括売却の場合の最低売却価額を定めることになる。この場合の個別の最低売却価額は、配当の際の案分の基準としての意味を持つだけです。
 なお、法六一条但書では、一個の申立により数個の不動産が差押えられ、そのうちの一部の不動産の最低売却価額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがある場合には、債務者(所有者)の同意を要するとされているが、この場合債務者らの同意を必らず得られるとは期待できないので、各不動産ごとに最低売却価額を決定しておくべきです。
 執行裁判所により定められた最低売却価額は、適正妥当な価額であるはずであるから、売却期日において買受の申出がなかったときでも、原則としてこれを変更(低減等)しないことになっています。評価が市価よりは相当安い公示価格を基準として算出することからすると、評価に基づいて決定された最低売却価額は、どちらかというと卸し値的なものであるから、買受けの申出がないときでもこれを直ちに低減しない取り扱いをすることになっているのです。しかしながら不動産価額の決定は色々な事情の総合判断に基づくものであり、評価後に事情が変更することもあるだろうし、例えば借地権の解除請求、進んで土地明渡訴訟が提起されたような場合、入札あるいは競り売り、特別売却等売却方法を変えて売却を試みても、買受人がない等、その他変更の必要があると認めるときは、執行裁判所は最低売却価額を変更することができる。
 ここに述べた最低売却価額の決定及び変更は、執行手続上極めて重要な地位を占めているので、これに不服のある債権者、債務者、所有者は、執行異議を申立て、その是正を求めることができる。異議棄却決定に対しては特別の定めがないので執行抗告は許されません。

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