差押不動産の売却に伴う権利の消滅と引受

 強制競売(担保権の実行としての競売)による売却によって不動産の所有権を買受人に取得させるにあたり、その不動産上の権利の消滅又は引受けは法定売却条件の一つですが、これがどのように定められるかによって、単に競売による売却を容易にするか否かに関係するだけでなく、交換価値を把握し、金融手段として重要な役割を果している抵当制度の発達にも影響するところが大きい。これについて立法主義として、不動産上の負担消滅主義と負担引受主義、負担移転主義及び負担補償主義があります。
 負担消滅主義とは、差押債権者の債権に先だっすべての不動産上の負担を売却によって消滅させ、買受人に負担のつかない完全な姿の不動産を取得させるとするものであり、負担引受主義とは、差押債権者の権利に優先する不動産上の負担の存続を条件として売却を許すもので、競売による売却は優先する権利には何らの影響を及ぼさず、買受人はその権利を引受け、これの存続する不動産を取得するというものです。
 負担移転主義とは、引受主義を更に一歩進め、不動産上の負担は引受を要しないで、売却により法律上当然に買受人に移転するというものであり、負担補償主義は、買受代金が一般手続費用のほかに、差押債権者に優先するすべての不動産上の権利の弁済を償って、なお余剰がある場合でなければ競売を認めないとするものです。
 これら基本的な主義はいずれも一長一短があり、これらのうちその一つだけによって処理することは難しい。すなわち負担消滅主義によれば、売却によって不動産上に何ら負担のない所有権を取得できるから、買受人側からすれば理想的であり、その限りでは競売を容易にする利点があるが、その反面優先権者は、欲しない時期に不十分な資本の回収を余儀なくされることとなり、抵当制度によって保証される不動産金融を阻害する結果ともなります。そのうえこの主義は、買受代金が不動産上の負担及び手続の費用を償うに足りないときでも、なお売却を許すこととなるため、差押債権者は何らの満足を受けえないこととなり、債務者も不利益に不動産を手離すこととなります。
 負担引受主義は、買受人が優先権ある不動屋上の負担を現実に引受ける場合に限って、競売を許すものであるから、買受人はその後担保権の実行を予期しなくてはならない点で、その地位は不安定です。
 負担移転主義は、優先権者の保護は十分ですが、引受主義と同じように買受人のその後の地位を不安定なものとする点で、買受希望者を得ることは困難でしょう。負担消滅主義の不合理を修正する意味で負担補償主義が生じたのです。
 ところで売却に伴う権利の消滅等に関する売却条件は、当事者間における任意の売買であれば、当該不動産上に存する担保権や用益権は、すべて抹消して負担のない状態で買受けるか、それとも一部を買主が引受けるかなど、当事者間の契約条項として合意により自由に定められるし、それによって代金も合意により定められるのであるが、さぎに述べたように競売における強制換価の場合には、それはできないので、この売却条件は原則として法定されています。民事執行法はこの点について次のような考え方が採られています。

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 不動産上に存する抵当権、先取特権は、差押えの登記に後れるものはもちろん、差押えに優先するものも、売却によって消滅することとされ、負担消滅主義が採用されている。これらの権利は順位に従い売却代金から配当を受けることになるが、優先する抵当権、先取特権の彼担保債権の全額を弁済し得る買受申出価額を得る見込がなければ、売却できないとする剰余主義が採用されているので、これらの権利は全額の満足が保障されている。
 使用及び収益をしない旨の定めのある質権は、たとえ最先順位であっても、抵当権、先取特権と同じく、常に売却によって消滅し、これまた順位に従って配当を受けられる。しかし、使用、収益を伴う質権で、差押債権者の権利に優先するものは、売却によって消滅せず、買受人において引受けられるのを原則とするいわゆる引受主義が採用されている。使用、収益を伴う質権でも、売却により消滅する担保権に後れる場合は、その担保権と共に消滅する。
 建物に対する抵当権実行の場合に、当該建物の敷地上に存する賃借権に対し質権が設定されている場合に、その質権を買受人が引受けることになるかどうか議論のあるところですが、もし引受けるとすると建物抵当権者はその担保価値の回収ができないことになるので、この場合は建物競売の結果消滅するものと解するのが相当です。この見解に立った場合には、土地賃借権の質権者に対しては法八七条を類推して売却代金から配当をすべきです。
 留置権は、旧法と同じくその留置的効力を尊重して、常に売却により消滅せず、買受人が引受けるものとしています。留置権は、差押えによる処分制限を受けることなく、差押え後も発生する可能性があるため、消滅主義は採用できないとされているのです。
 仮登記は、不動産に関する物権変動(権利の設定、移転等)又はその請求権の順位を保全するため、不動産登記法二条に定める要件を具備したときに限りなされる。
 取引社会においては、代物弁済予約に基づく所有権移転請求権の保全、抵当権設定請求権の保全とか、抵当権(根抵当権)設定登記と併用してなされる賃借権設定請求権の保全等のために、仮登記がしばしば用いられる。
 不動産登記法二条の仮登記は、その一号によるものと、二号によるものとがありますが、いずれの仮登記も、物権変動による本登記の順位を保全するものです。ところで、仮登記の中には、債務不履行を条件とする所有権移転請求権の保全とか、賃借権設定請求権の保全を目的とするところの実体的には担保的機能を有する仮登記があるが、それが民事執行法上どのような処遇を受けるかについて次に説明します。
 最先順位にある、例えば条件付売買を原因とする所有権移転の仮登記や、通常の売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記のように非担保目的の仮登記は、法五九条五項の合意による特別売却条件を定める場合を除いて、競売による売却によっては消滅せず、仮登記権利者は常に買受人に主張できる地位を保持(引受)することとなります。
 そのために、このような仮登記のある不動産の買受人は、売却による所有権移転の登記を経た後も、仮登記の本登記についての承諾義務を負うこととなるので、実務では処分禁止の仮処分の登記のある不動産の換価と同様に、売却手続を進行させない取扱いです。
 仮登記が抵当権と併用されているなど担保目的のものであると認められるものについては、最先順位のものでも消滅主義がとられ、仮登記の順位に応じて配当を受けられる。ただし仮登記担保権の実行が先行し、競売申立前に清算が完了しているときは、その所有権取得をもって第三者に対抗できるので、売却により消滅することはない。根仮登記担保権は競売手続においては効力を有しかいから、配当にはあずかれない。
 抵当権と併用のものでない担保目的の仮登記は、担保権とほぼ同じ扱いを受ける。ただこの仮登記は、登記簿上には披担保債権の額が記載されていないことから、仮登記担保権者は、催告を受けて債権の届出をしない限りは配当にあずかれない。
 非担保目的の仮登記であれ、担保目的の仮登記であれ、それが売却によって消滅する担保権や、差押え又は仮差押えの登記に後れるものは、常に売却によりその効力を失って消滅します。
 最先順位の対抗力を具備した地上権、永小作権、地役権、賃借権等の用益権は、売却によって消滅せず、買受人が引受けるのが原則です。
 抵当権に劣後する短期賃借権もまた買受人が引受けることになります。
 売却によって消滅する担保権に対抗できない地上権、永小作権、長期賃借権、使用賃借権は売却によってその効力を失う。これらは旧法時の通説、判例の見解と同様である。
 仮差押え又は差押え後に設定された用益権は、仮差押え又は差押えによる処分制限の効果として手続上効力を有しないものとされるので、売却によって消滅する。
 ところで差押えの登記前に対抗要件を備えた用益権があるが、その用益権は仮差押えの登記に後れるものである場合、売却条件などどのように考えるべきかについて二つの考え方がある。
 一つは、この場合の用益権は、仮差押えの運命如何によることになるので、売却条件は定まらないから、競売手続は停止しておくべきであるとする見解と、これに対し、仮差押えは一応有効なものとして、これに後れる用益権は無視して手続を進めるべきである、もし売却許可決定前に仮差押債権者が敗訴するか、仮差押えがその効力を失ったとぎぺ競売手続をやり直すが、仮差押えが存在するまま当該不動産が売却されたときは、用益権は消滅する、すなわち売却条件上は用益権はないものとして扱うとの見解がある。
 これについて、停止説をとることになると、用益権は執行妨害に利用されるおそれがあるとされている。法五九条二項は、売却の時点で有効な仮差押執行がされていれば、その仮差押えに後れる用益権は売却によって消滅するとの規定であり、それが仮差押えにも手続相対効を採る民事執行法の趣旨に合致するものと思われるので、この場合は、売却により確定的に効力を失うと解すべきで用益権はゼロと評価して手続を進行させるべきです。
 この見解によると、その後仮差押えが本案訴訟で敗訴するか、仮差押えが効力を失ったとしても、用益権は復活しないと解すべきです。
 用益権が消滅するか否かについては、登記はもちろん、建物保護二関スル法律一条、借家法一条等引渡し(占有)によって対抗要件を具備したものについては、その対抗要件具備の時期と、抵当権等の設定登記や、差押え登記の時期との先後関係によって決まることになる。それ故に登記以外の方法による対抗要件具備の時期については、現況調査における最も重要な調査事項となるのです。
 賃借権に関する仮登記は、通常取引において用いられる例は極めて稀で、ほとんどが抵当権設定登記と併用される担保目的のものであるといってよい。このような担保目的のものであれば、抵当権と同様売却によって消滅し、その仮登記は売却による嘱託によって抹消される。ただ抵当権設定登記と併用されるのでなく、賃借権の仮登記だけでしかも最先順位でなされると、担保目的のものと認定される事情がない以上、通常の賃借権仮登記として、売却条件上は買受人の引受けとなるものとして扱われる。
 売却により消滅する抵当権に後れる賃借権仮登記は、短期賃借権に関する仮登記を除き消滅する。この場合の短期賃借権の仮登記は買受人が引受けることになるので、目的不動産の売却価額に影響がある。
 売却によって消滅する抵当権設定登記前に設定された短期賃借権が抵当権設定後差押前に更新された場合は、抵当権者に対抗できる。抵当権設定登記後の短期賃借権が差押後に期間が満了した場合は、更新をもって抵当権者に対抗できない。抵当権設定登記後、差押えの登記前に登記された短期賃借権でも、賃借期間中の賃料全額を前払し、かつ異常に高額な敷金を差入れているとか、不動産の占有を伴わず、かつ、金銭債務の不履行を停止条件としているようなものは、抵当権又は仮登記担保権を併用されていなくても、債権者を害し、競売を妨害するものであるから、売却により短期賃借権は効力を失うものと解する。したがって最低売却価額は、このような短期賃借権は効力を失うものとして定めてよいし、物件明細書には、これを記載せず、代金の納付によりその登記の抹消を嘱託すべきである。
 短期賃借権は仮登記を経ても差押えに後れるものは、売却により消滅する。しかし根仮登記担保権に後れる短期賃借権は消滅しない。前述のように根仮登記担保権は、競売手続上無効だからです。滞納処分による差押登記後、競売開始決定による差押登記前に設定され対抗力を備えた短期賃貸借は、競売について続行決定かあった民事執行法上の手続においても売却によって消滅するものとして取扱うのが相当です。
 差押え、仮差押えの執行は、いずれも換価を目的とし、あるいは換価のための保全目的であることから、常に売却によって消滅する。差押えが強制管理によるものであっても同様です。
 売却によって消滅する担保権、差押え、仮差押えに後れる仮処分の執行も売却により失効する。最先順位の処分禁止の仮処分の登記は、売却によっては効力を失わず、買受人において引受けることになる。このような仮処分は、換価を妨げる権利であるから、仮処分が存続する限り競売手続は進めることはできない。この仮処分が、担保権設定請求権を披保全権利とする場合は、たとえ最先順位であっても、担保権と同様の扱いにより消滅することになる。
 差押えの登記前に、占有移転禁止、執行官保管の仮処分の執行がなされている場合は、この仮処分は登記簿上には表われていないが、買受人に対抗できるのであるから、売却により効力を失わず、買受人は所有権移転登記はできても、執行官が保管している以上引渡しを受けることはできない。
 最先順位の買戻登記は、売却によって消滅せず買受人が引受けることになる。
 差押え、仮差押登記後にされた競売不動産に対する所有権の移転登記は、手続相対効が採用された結果売却によりその効力を失う。
 このほか後に述べる民法三八八条、民事執行法八一条により法定地上権が成立する場合には、土地の買受人は、その地上権を負担することになる。
 引受けとなるべきものが用益権であれば、買受人は目的物の使用権がないことになり、非担保目的の仮登記、処分禁止の仮処分であれば、取得した所有権は覆えることになる。また占有移転禁止の仮処分であれば、さきに述べたように引渡しを求めることができない。引受けとなるものが、質権又は留最後であれば、買受人は、その披担保債権を弁済する責任がある。
 この弁済責任については、旧法当時から、買受人は、留置権者、質権者等に対し人的債務をも引受けるわけではないから、留置権者、質権者等は買受人に対して披担保債権の弁済を請求することができず、その弁済があるまで不動産の引渡しを拒み又はその弁済がないときは第三収得者である買受人を相手方として担保権の実行による競売の申立てができるとする見解と、債務者は、買受人の引受とされると不動産の所有権を失った上に、なお人的債務をも負担するということでは、債務者自身の実体法上の地位とかかおりのない事情により、その法的地位が大きく左右され、甚だ不合理であるとの理由から買受人が担保権を引受けるときは、その人的債務をも引受けるものと解すべく、留置権者等は買受人に対し披担保債権の弁済を請求することができるとの見解の対立がある。
 この両説のいずれによるかは、最低売却価額の決定に重大な影響を及ぼすことになる。すなわち後説によれば、買受人が負担すべき被担保債権額を評価額から控除した残額を最低売却価額とすることになる。前説によるとしても、債務者には支払能力、支払意思など期待できないので、結局は買受人において披担保債権を支払って不動産の引渡しを受けることになるであろうことを考えると、実務上は最低売却価額の決定にあたっては、後説と同様の考え方を採らざるを得ないでしょう。

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