競売開始決定後の不動産の評価

 民事執行法制定の趣旨の一つである売却の適正化は、適正な最低売却価額により実現されるというべきで、その最低売却価額は適正な評価に基づいて定めなければならないとしています。
 ところで旧法下では裁判所は職権をもって適当と認める者をして不動産の評価をなさしめ、これを斟酌して最低競売価額を定めることとしていました。つまり、裁判所は、評価の結果を参考資料にして諸般の事情を考慮して独自に最低競売価額を決めるという建前をとっていたため、評価をする者は不動産鑑定士に限られず、適当と認める者をしてなさしめており、裁判所によっては執行官をして評価をなさしめる取扱いをしていました。新法はこの点について資格のある評価人に評価をさせて、裁判所は評価人以上に専門家であるということはいえないので、その評価の結果を尊重しこれに基づいて最低売却価額を決定することとしたのです。評価を命ぜられる者は不動産鑑定士に限定はしたいが、これを評価人と呼称し、不動産への立入権及び債務者等に対する質問権等を与え、評価の充実、適正化を図っています。法五八条の趣旨からすると、できる限り専門家である不動産鑑定士を評価人とすることが望ましい。しかし適当な不動産鑑定士を得ることができない場合には、民事執行規則三〇条に規定する内容の評価書を作成する能力を備えた者を選任すべきです。

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 執行裁判所は、評価人を選任した場合には、次のような選任決定をし、評価書の提出期限を定めた上、評価命令を発する。
 評価は、当然に当該不動産について種々の権利関係の有無を前提としてなさるべきであるから、建前としてはまず現況調査をすませて、その結果を踏まえてなさるべきで、民事執行法もこのような考え方で規定されていると思われますが、実際問題としては、旧法下における賃貸借の取調べと評価とは同時に発令し、評価人も独自の立場で賃貸借関係その他の権利関係を調査しており、調査の過程で評価人と賃貸借取調べの執行官とは連絡を取り合っていたのですが、民事執行法における評価の場合も、現況調査とは別個に独自に占有関係の調査をすることになるであろうから、評価命令は、従前と同様執行官に対する現況調査命令と同時に発令することになるでしょう。
 評価と現況調査とは、密接に関連していることはいうまでもなく、評価人としては、執行官による援助の問題もある関係上、執行官と相互に情報交換などをし、評価が円滑に、しかも迅速になされることに努力すべきです。
 このように評価と現況調査とが各別に行われるために、当該不動産に対する権利関係、例えば賃貸借の有無等について、評価人の認識と執行官のそれとが異なる場合が起り得るであろうが、その場合は執行裁判所において調整し、必要に応じて再調査なり、再評価を命ずるという運用をすることになるでしょう。
 この点について執行官と評価人が、一緒に現場に赴いて共同して調査することにすれば、このような問題は多少防げることになろうか。もっとも、この場合は、同じ間違いをすることもあろうから、両者は職務の独自性を認識し、互いに協力し合って適切な調査なり評価をしなければならないことはもちろんです。
 評価書の提出期限は、目的物にもよるし、各地域の実情にもよることになるので一概に決められないが、通常は一カ月程度とされることとなるでしょう。東京地裁では四〇日という取扱いです。
 評価人には、目的不動産への立入権限、債務者又は不動産占有者に対する質問の権限等が認められています。このような権限が付与された理由は、的確妥当な評価ができるようにするためです。評価人はこのような権限を行使するには評価命令書の正本を携帯して必要に応じてこれを提示すべきである。評価人は、執行官とは異なるので、評価人自ら威力を用いたり、直接警察上の援助を求めることができるとすることは相当でないという理由から、評価のための調査をするに際し開錠を必要とするとか、債務者、不動産占有者、その他第三者から抵抗を受けるときは、それを排除するため執行官に援助を求めることができることとしています。但し評価のために抵抗の排除までしなければならないかどうかは事案に応じ、またその程度等により異なるので、執行官の援助を求めるには、執行裁判所の許可を受けなければならないとされています。執行官により現況調査、執行裁判所の審問手続により目的不動産に対する事実関係及び権利関係が明確になっていれば、評価人に抵抗を排除してまで立入りを認める必要性は少ないといえるからです。
 執行官に対する援助許可の申立ては、評価人から具体的な事実を記載した申立書二通(正副)を作成して執行裁判所に提出します。執行裁判所は申立書を審査し、執行官の援助の必要があると認めたときは、正本の方に許可印を押捺して評価人に交付します。評価人はこれを執行官に提出して援助を求めることになります。
 援助執行官に対する手数料は、執行官から執行裁判所に請求をすれば、裁判所は、債権者が納付しました。予納金の中から支給します。この費用は執行費用となります。
 評価人は、不動産の評価をしたときは、その評価の結果を書面にして所定の提出期限までに執行裁判所へ提出しなければなりません。評価書は、物件明細書と共に一般の閲覧に供するため執行裁判所に備置きの必要上、原本のほかに写しを一通提出すべきです。
 不動産の表示は強制競売(担保権実行による競売)の目的物である不動産のことで、現況調査報告書の記載事項の不動産の表示の個所で述べたところと同様です。
 評価額は、競売の目的不動産及びその構成部分(土地についての未登記立木、庭木、庭石、石燈龍、屏等、建物について扉等)、その不動産の従物(土地にっいての鉄塔等、建物についての物置小屋、車庫等)、建物についての借地権のような目的物に随伴する権利の価額を含み、この価額から不動産上の負担(例えば差押えの登記前の使用及び収益を伴う質権や、土地にっいての法定地上権等)を差引いた買受人の取得する権利の額であって、評価書の結論部分なのです。数個の不動産について同時に評価を命ぜられて一通の評価書を作成して提出する場合でも、各不動産について個別に評価をし、評価額を記載すべきです。評価の年月日は、評価をした日を記載します。
 環境の内容としては、自然環境、地域性(住宅地か工場地帯等)、交通の使、公共施設の利用の優等が考えられますが、評価書に記載するのは、環境の概要であるから、これらに該当する主要な点を記載します。民事執行規則三〇条二項で評価書の添付書類とされている「不動産の所在する場所の周辺の概況を示す図面」を引用すれば、記載は簡略化されるし、理解も容易です。この記載は、評価の重要な資料であるし、買受人の参考にもなります。
 評価の目的物が土地であるとき、地積は評価に欠くことのできない資料です。その数値が異なれば評価額に直接影響することになるのであるから、正確に測定して記載することが要求されます。しかし、実際問題として、都会地で建物が密集している場合には、土地の境界などについても建物やコンクリート屏の下になっていたりして、目的土地の正確な面積を実測するということは、専門家をもってしても困難な作業です。このような場合評価人は、通常不動産鑑定士が選任されているでしょうが、地積の測量となると必ずしも専門家ではないことから、正確な面積の調査を期待するのは無理なことで、規則はそこまでの要求をしているわけではないでしょう。このような場合には、評価人の概測によって公簿上の面積とそれ程の差異がなければそれで足りる。もし相当程度の差異があれば、評価人は執行裁判所の指示を求めるべきです。この場合は測量の専門家である土地家屋調査士あるいは測量士等による測量の実施が考えられます。測量士等の報酬は評価に要した費用として加算されます。目的物が広大な原野とか、山林の場合のように地積の測定に困難の場合も(境界に争いがあるような場合など)同様のことが考えられますが、厳密な測量をすると不相当な費用を要するときは、目測で得られた最小面積に基づいて評価額を算出することもやむを得ません。なお私道関係なども明確にすべきです。
 民事執行規則三〇条一項五号ロで例示されている法令は、都市計画法及び建築基準法であるが、これらの制限にっいては、目的土地が右各法律の規定によるいかなる指定地域であるかを記載する。例えば本件土地は、都市計画法七条による市街化区域又は市街化調整区域の指定地域であると記載するごときです。建築基準法五二条、五三条に規定するいわゆる建ぺい率の制限は重要な事項であり、これについては具体的な数値を記載すべきであるとされています。
 不動産鑑定士が、法定の都市計画区域内の土地について鑑定評価を行う場合には、公示価格を基準としなければならないとされているので、規準とした公示価格を記載します。不動産鑑定士以外の者が評価人である場合には、この規定の適用はありませんが、法定の都市計画区域内の土地であれば、やはり公示価格を基準とすることとなるでしょう。その他の評価の参考事項の例としては、条解規則一三〇頁の説明では、原価法における造成、埋立てに要した費用、取引事例比較法における近隣地域又は同一需給圏内の類似地域における取引事例、都道府県の指定基準地価格、固定資産税評価額、相続税路線価、収益還元法における維持管理費用、賃貸料などであるとしています。
 床面積は概略ではなく、詳細かつ正確に記載します。そして当然のことながら現況で表示されなければならない。土地における地積と同じく、建物においてもこれが評価の重要な資料であるからです。種類、構造については、不動産登記法施行令六条及び八条の区分に従って記載します。
 民事執行法三〇条一項六号で参考事項として例示されているのは、残存耐用年数ですが、その他の例としては原価法における建設工事費などであるとされています。建築協定がされていることなども、ここで明らかにすればよいでしょう。
 評価額の算出の過程というのは、具体的に述べると、不動産鑑定評価基準によると、評価の方式としては、原価法、取引事例比較法、収益還元法の三つを定め、それぞれの手法により算出された試算価格に基づき、鑑定評価額を決定するものとされている。したがって、事案に応じてこれら三方式のうちの適切な評価方法を採り、その算出過程及びその最終的結論としての評価額決定に至る計算過程が全部わかるような記載をすべきで、この方式に付加して又は他の方式を採用したときは、その算出の全過程を記載します。土地とその地上建物が競売物件であるときは、これを評価するときは、一括売却の場合の価格と、個別売却を前提とした場合の個別の価格のとおりを算出して記載するようにします。また土地の一部について地上権が成立する場合には、地上権の成立する範囲は図面を添付して説明するようにする。評価額を算出する際には、不動産の従物及び目的物件に附随する権利の価額を加算し、不動産上の負担となっている権利を差し引かなければならないので、これについても評価をして記載すべきです。
 目的物件に附随している権利である賃借権、不動屋上の負担としての用益物権等の評価については、不動産鑑定評価基準に従って適正に評価すべきです。不動産上の権利関係、例えば賃貸借の存否、対抗力の有無等に確実な心証を得難いという場合には、賃貸借がある場合とない場合、賃貸借がある場合には買受人に対抗できる場合と、できない場合の評価額を記載して、裁判所の判断に任すのがよい。ただ、これらの権利関係をどのように見て、これをどのように経済的に評価するかは極めて困難な問題があると思われるので、これについては評価人は裁判所と密接な連絡の下に評価をするようにすべきです。
 評価人による評価額算出の過程及びその結果に基づく評価額の決定は、債務者(所有者)その他関係人に及ぼす影響は重大なものであることはいうまでもなく、旧法当時においてもそうであったように、新法下においても、後に不服の理由とされることも考えられるので、納得の行く記載を心掛けるべきです。

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