競売開始決定後の債務者の競合

 強制競売又は担保権の実行としての競売の開始決定がされた不動産について、更に他の債権者から抵当権の実行としての競売又は強制競売の申立てがされた場合には、旧法のもとでは執行裁判所は後行の申立てに対しては重ねて開始決定をすることができないものとし、この場合には、後行の申立てについては、開始決定をするかわりに先行する競売事件の執行記録に添付することによって配当要求の効力を生ぜしめることにしていました。
 このような制度は、先行事件が取り消されたり、取り下げられた場合に、記録添付された後行事件が公示されていない関係で、種々の不都合が生じていました。例えば先行の競売が取消し又は取下げられた場合には、記録添付のときに遡って開始決定の効力があったものとみなすとして、潜在的に差押えの効力を認めながら、形式的には記録添付債権者にすぎないということから、登記上の利害関係人にはならないとか、先行の強制競売が取消し又は取下げられた後に、抵当権設定や用益権設定をしようとする者の保護に欠ける場合があり、記録添付の効力の発生時について、実務の取扱いが分かれていたなどいろいろの問題のある手続であったのです。

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 民事執行法は、旧法の問題点を解消するため、二重に強制競売又は担保権の実行としての競売の申立てがあった場合には、執行裁判所は、すべて開始決定をすることとし、差押えの宣言もなされ、重ねて誰が当該手続について競売の申立てをし、開始決定がされたかを公示することにしたものです。この二重の差押えの登記については、後行の申立債権者は、先行の差押債権者と同様債権額の一〇〇〇分の四の登録免許税を負担しなければならない。なお、後行の申立債権者には、所要の郵券を予納させる。後行事件により手続が進行することとなったときに、事件の進行の程度に従って、適当な額を予納させるべきです。
 この差押えの登記に要した費用は、二重競売の申立てに関する費用と共に共益費用にはなりませんが、申立債権者が配当を受ける際にその債権の順位に応じて執行費用として償還を受けることができます。先行事件が取消し又は取下げにより後行事件において手続が続行されるときは、これらの費用は共益費用になります。
 後行事件について重ねて開始決定をするといっても、それによって差押えの登記の嘱託までは行うが、配当要求の終期を定める手続以後の手続は原則として行われない。この後行事件の債権者は、先行競売事件で手続が進められている限りは、先着手主義の原則により、たとえ差押えの登記はあっても執行手続の正面に立つわけではなく、他人の申し立てた手続に依存して、配当又は代金の交付を受ける地位を有するに過ぎません。二重開始決定は、配当要求の終期後にされた競売の申立てについてもされますが、先行競売事件で手続が進められる限りは、その債権者は、売却代金の分配にはあずかれません。
 後行の競売申立てが配当要求の終期までにされた場合は、その債権者は、配当等を受ける地位にある関係上、後行事件について開始決定がされたときは、裁判所書記官は、先行事件の差押債権者にその旨を通知しなければならない。この通知は、先行の事件の差押債権者が後行事件の差押債権者が配当等を受ける地位を有することにより不利益を受けるために、他の執行の準備をさせるとともに、これに対し適当な対策を講じる機会を与えるためです。
 差押え後に目的不動産の所有権が第三者に移転され、その新所有者に対する債権者が強制競売の申立てをして開始決定がされた場合は、先行事件の差押債権者に通知をする必要はありません。この場合は、法四七条にいう二重開始決定ではなく、別個の事件になるからです。
 後行の競売申立債権者は、先行の競売手続が続行している限り、配当等にあずかる地位しか与えられていませんが、先行の強制競売若しくは競売の申立てが取り下げられたり、競売手続が取り消されたときには、後行の申立債権者のために、それまで進行してきた手続を利用して、当然に競売手続が続行されることになります。
 この場合は、続行の裁判を必要としません。この場合先行手続で利用できるのは、現況調査報告書、評価書、債権届出書、配当要求申立書、交付要求書等です。法四七条二項により手続を続行する場合には、売却に伴う権利の消滅等に関する法五九条二項、三項、法定地上権に関する法八一条等の適用については、後行事件の差押えが基準になるから、先行事件の差押えと後行事件の差押えとの間に用益権の設定や、仮処分の執行があったり、土地又はその地上の建物の所有権に変動があれば、当然に物件明細書の記載事項に変更を生ずることになります。そのために後行の差押え後に現況調査がされた場合、又は既に売却許可決定がされた場合を除き、執行裁判所は、執行官に対し再度現況調査を命ずべきです。その結果買受人の引受けるべき権利に変動かあって、最低売却価額に影響があると認められるときは、評価をやり直すことになります。
 先行の競売申立が取下げ又は競売手続の取消しにより、後行の申立事件で手続が続行される場合、その後行の強制競売の開始決定が、先行の事件で定められた配当要求の終期後の申立てである場合には、執行裁判所は、配当要求の終期の指定及び入札期日を変更してその公告等をやり直す必要がありまい。先行の手続によって定められた配当要求の終期をそのままにしていては、一切の配当要求が封じられることになり不当であるからです。そして先行の差押え後の抵当権者や、仮差押債権者又は債権届出をしていない債権者には、改めて債権届出の催告をしなければなりません。
 既に債権届出の催告に基づいてその届出をしている債権者には、重ねて催告をする必要はありません。
 先行の差押えと後行の差押えとの間に、用益権(例えば賃借権)が設定されていた場合には、先行事件がなくなったことによって、その用益権は引受けになるので、目的不動産の再評価と、最低売却価額の改訂が必要となり、物件明細書も作り直さなければなりません。また先行の差押えと、緩行の差押えとの間に抵当権が設定されていた場合には、先行の差押えがなくなったことにより、先行手続では無視されていた抵当権者が優先弁済権者である地位を取得することになるので、裁判所は抵当権者に債権の存否等の届出を催告しなければならないし、無剰余取消しの規定の適用の有無についても調査しなければならなくなります。また、先行の差押えと、後行の差押えとの間に仮差押えの執行がされていたときも、仮差押債権者に債権等の届出の催告をすることになります。
 先行の強制競売又は競売事件について、法三九条一項七号・八号の強制執行の一時停止を命ずる決定正本又は法一八三条一項五号の担保権の実行を一時禁止する裁判の謄本の提出により、競売手続が停止された場合には、裁判所書記官は、後行事件の差押債権者にその旨を通知しなければななりません。
 旧法においては、記録添付の後に先行の競売事件が停止になったときは、後行の申立てが開始決定の効力を生じ、手続は当然に続行になっのですが、先行の差押えと後行の差押えとこ間に賃借権又は抵当権の設定等があった場合には、後行の競売事件を続行するに際し、後行債権者の権利に影響するところが大きいので、後行債権者に続行を求めるか、先行の差押事件の成ゆきを待つかの選択権を認めた方がよいということで民事執行法は、停止になった事件を執行裁判所が職権で進行することとせず、後行の差押債権者の続行決定の申立てを要することにしたのです。そこで後行の差押債権者に先行の競売手続が停止された旨を通知して続行決定の申立権行使の機会を与えることとしたのです。
 手続を続行する旨の申立権は、先行の開始決定に基づいて定められた配当要求の終期までに強制競売又は競売の申立てをした後行の差押債権者のみが有するのですが、配当要求の終期は、執行裁判所により延期されることもあり、また、終期から三月以内に売却許可決定がされないとき等には、終期は自動的に変更されたものとみなされるので、配当要求の終期後の競売申立てであっても、延期又は変更により配当要求の終期前の申立てになることもあるから、そうすると、その債権者も続行の申立てをすることができることになります。したがって、裁判所書記官としてはすべての後行の差押債権者に通知しておくべきです。
 続行決定の申立てができる後行の差押債権者が二人以上ある場合には、通常は差押えの順序で続行の申立てをするであろうが、例えば、径行の第二、第三の差押債権者のうち第三の差押債権者が続行の申立てをしたときは、執行裁判所は、第三の開始決定に基づいて続行決定を発してよい。この場合は法四七条四項但書の適用については第三の事件を基準として判断すべきです。そして第三の差押債権者にじ後の手続費用を予納させた上で続行することになります。この場合第二、第三の差押債権者がいずれも続行決定の申立てをしたときは、先に申立てをした差押債権者のために続行決定をする。
 配当要求の終期までに競売の申立てをした後行の差押債権者から続行決定を求める申立てがあったときは、執行裁判所は、後行事件の開始決定に基づいて手続を続行する旨の裁判をすることができる。この場合先行の競売手続が取り消されたとすれば、物件明細書中の買受人が引受けなければならない権利に変更が生ずるような場合には続行決定はできない。
 買受人が引受ける権利に変更を生ずる場合とは、例えば、先行の差押登記と、後行の差押登記との間に賃借権の設定登記がされているような場合に、先行の手続が取り消されたときには、賃借権設定は有効となるし、先行の手続が取り消されないことが確定したときには、賃借権の設定は手続上無視されることになるので、先行の手続がどういうことになるか決まらないと、最低売却価額など決めることもできないような場合には、続行の裁判はできないということです。この買受人の引受ける権利の中には、法定地上権の成立も含まれると解されている。先行の差押登記と、後行の差押登記との間に抵当権の設定登記がある場合に、先行の手続が停止された場合には、この抵当権はいずれの手続で進められても消滅するので、売却条件に変更が生ずるということはないが、ただ先行事件が取り消されることに確定すると、抵当権は後行事件の差押債権に優先することになるので、手続を続行するかどうかは後行事件の差押債権者の判断に委ねることとし、執行裁判所はこのような事例には介入しないことになっています。
 買受人が引受ける権利に変更がある場合には、最低売却価額に影響するので、続行決定を求める申立てがあったときは、執行裁判所は先行事件と後行事件との間の新たな用益権の有無等について、執行官に対し現況調査を命ずることになります。
 後行の競売事件が設定登記のある最優先の担保権によってなされたものであるときに、先行強制競売事件が停止になったときには、続行の申立てを要せず当然に後行競売事件の担保権者のために続行すべきものと解することができます。この場合には、短期賃借権を除き、担保権設定後の用益権等は効力がないものとして処理されます。
 差押え登記後に、設定登記された抵当権に基づいて競売の申立てがされた場合や、未登記抵当権者が、抵当権の存在を確認する判決等に基づいて競売の申立てがされた場合には、それらの申立ては先行の競売手続が取り消されたり、取り下げられることがあり得るので、執行裁判所は二重開始決定をしなければならないが、これらの債権者は先行競売事件が続行する限りは、当該不動産の売却代金の分配にあずかることはできないのである。したがって、この場合、先行競売手続が停止しても、売却条件に変更を生じないときであっても、後行競売事件による続行は認められない。何故ならば、民事執行法は剰余主義が採用されているので、後行競売事件の差押債権者の債権に弁済されるかどうか不明である間は、手続は続行すべきではないと解されるからです。
 続行決定がなされ、後行事件で手続が進められても先行事件の手続は停止になっただけで差押えの効力自体は残っているわけであるから、差押えの効果や、法五九条、八七条の適用に当たっては、先行事件の差押えを基準として考えなければならない。言い換えれば、続行決定があっても差押えの効力の基準時は変りはないということです。
 続行決定によって後行事件で手続が進められている間に、いったん停止された先行手続の停止がとけた場合でも、続行決定が取消されない限り後行事件でそのまま手続は進行し、先行の手続に戻らないと解すべきです。
 競売手続の続行決定は、申立人である差押債権者に告知すべきです。債務者には続行決定を告知する必要はないとされている。しかし、債務者は停止文書を提出して手続を停止させたと思っていたのに、債務者が知らない間に手続が進行するということを知らせないというのは適当でないということから、民事執行規則二五条三項は、続行の裁判がされたときは、裁判所書記官は、債務者に対し、その旨を通知しなければならないとしています。
 続行申立てが不適法な場合には、却下することになります。この却下決定に対しては執行抗告ができます。

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