競売開始決定後の差押えの登記

 競売開始決定がされたときは、裁判所書記官は開始決定の原本を裁判官から受領後直ちに管轄登記所に対し、開始決定に係る差押えの登記を嘱託しなければならない。差押え(処分制限)について対抗要件を備えるためです。
 強制管理の開始決定に係る差押えの登記がされている不動産についても、強制競売の開始決定による差押えの登記の嘱託ができます。この場合は差押えの登記が二重にされることになります。また、強制競売又は担保権の実行としての競売の開始決定がされた不動産について強制競売の申立てがあったときは、その開始決定に係る差押えの登記の嘱託が重ねてされることとなります。差押えの登記後に当該不動産が第三者に移転され、新所有者に対し強制競売開始決定がされたときも、その開始決定に係る差押えの登記の嘱託ができます。
 差押えの効力は、競売開始決定が債務者に送達されたときに生ずるとされていますが、その処分制限の効力を第三者(第三者の善意、悪意を問わない)に対抗するには、差押えの登記がされなければなりません。もし、開始決定後差押えの登記がされる前に、債務者が目的不動産の所有権を第三者に譲渡してその所有権移転登記を経由すると、開始決定における債務者を登記名義人としても差押えの登記の嘱託は却下されることになります。この場合債権者は取消権(民四二四条)を行使し、勝訴の判決を得なければならないことになりますが、その勝訴判決を得るまでには相当の日時と費用を要することになります。そのことを考えると、裁判所書記官は、競売開始決定後遅滞なく登記の嘱託手続をすべきです。
 このように差押えの登記前に所有者が変更したり不動産が滅失したときは、差押えの登記ができないので、登記所から執行裁判所に連絡され、嘱託書は却下されます。この場合は執行裁判所は、競売手続を取消すことになります。

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 差押えの登記は、目的不動産を管轄する法務局又はその出張所に嘱託しなければなりません。登記嘱託の方法は、嘱託言を裁判所から当該法務局に持参するか、又は書留郵優等により郵送するのが一般的な取扱いですが、迅速に差押えの登記を完了した方が申立債権者に有利であることを考慮して、実務では申立債権者がいわば裁判所の手足として嘱託書を登記所に持参する取扱いが見られます。この場合は、申立債権者に申請書を提出させて嘱託言を交付し、債権者自らが登記所に出向き嘱託書を提出する取扱いです。
 登記の嘱託書に記載すべき事項は、不動産登記法三六条に定められているところに従う。嘱託による登記手続については、法令に別段の定めのある場合を除くほか、申請による登記に関する規定が準用されるから、嘱託書にもその申請の要件にあたる事項を掲げなければなりません。
 民事執行事件の書類は、横書き左とじのものとしていますが、登記嘱託書の書式のみは、縦書きとしています。その理由は、登記嘱託書において数字を記載するときは原則として「壱、弐、参、拾」の文字を用いなければならないこと、登記嘱託書は、昭和四一年一〇月一七日民三第七七五号民事局長通知により、なるべく同通知別冊に掲げる様式によることになっていることからです。
 裁判所の記録につづるときは左とじですが、登記所では右とじであるので、紙面の両側にとじしろを設ける。
 登記の目的は、通常の場合には、「差押え」とする。共有待分権に対する競売の場合には、「何某持分何分の何の差押え」と記載する。所有権以外の権利の競売、例えば、地上権の差押えであれば、その権利を特定して記載する。例えば「平成何年何月何日受付第何号順位何番地上権差押え」と記載することになります。
 登記原因は、当該裁判所の競売開始決定であり、登記原因の日付としては、当該開始決定がされた日を記載します。
 不要な文字は抹消する。
 登記権利者、登記義務者の表示
 登記権利者としては、競売の申立債権者、登記義務者としては、不動産の所有権の登記名義人を記載します。同一の開始決定に債務者(不動産の所有者)が複数記載されていれば、嘱託書の登記義務者も複数記載されなければならないが、この場合は当該物件と所有者との関係を明確にしておく必要があります。登記権利者、登記義務者の記載は、いずれも不動産登記法三六条一項二号の申請人の表示としてされるのです。一般の登記申請について、共同申請によるべき場合は、申請人の表示として申請人である登記権利者及び登記義務者が記載され、不動産の表示変更の登記のように単独申請によるべきものについては、その申請人の表示がされるのですが、差押えの登記は、執行裁判所の職権によって嘱託すべきものであるから、申請人は、嘱託する当該執行裁判所の裁判所書記官を記載すべきです。しかし、この差押えの登記は、処分制限の効力を第三者に対抗するためになされるものであって、その登記によって直接利益を受ける者は申立債権者であり、不利益を受けるのは債務者、すなわち当該不動産の所有者であるから、本来は債権者、債務者の共同申請によるべきですが、債務者である登記義務者の協力は望み難いことであり、しかも執行裁判所は競売開始決定をした以上速やかに競売手続を進行せしめるべき職責を有するので、競売申立人の請求をまっまでもなく、直ちに職権をもって差押えの登記を嘱託すべきものとされているのです。このように考えると、競売申立人、すなわち債権者は、嘱託手続上は申請人にならないけれども、実質的には正に登記権利者であり、債務者、すなわち不動産の所有者は登記義務者です。この登記権利者、登記義務者の記載は、競売開始決定の債権者、債務者の表示と符号していることを要する。なお登記義務者の表示としては、所有権の登記のされている不動産にあっては、その所有権の登記名義人(又は共有名義人)の表示と符号していなければなりません。
 仮差押登記後、仮差押債権者が本執行をした場合に、仮差押登記後に第三者のために所有権移転の登記がされていても仮差押え当時の権利の登記名義人である債務者を登記義務者として差押えの登記の嘱託します。仮差押執行後の処分行為は、仮差押債権者との間だけでなく、その他のすべての債権者との関係で無効視されるからである。登記権利者、義務者の目録は縦書きが原則ですが、当事者の提出した横書きのものを利用しても差し支えない。 ただし、数字は「壱、弐、参、拾」を用いなければなりません。
 既登記の不動産にあっては、その登記簿上の表示と合致していなければならない。そして嘱託書に添付する競売開始決定正本の不動産の表示とも一致していることを要する。土地、建物の表示、区分建物の場合の記載にっいては不動産登記法三六条二項ないし四項に定められているところに従う。
 未登記の不動産の場合でも、債務者のために債権者代位による表示の登記及び所有権保存の登記をすることを要せず、差押えの登記の嘱託をすることができる。この場合には、嘱託書に従って、登記官が職権で不動産の表示の登記をし、債務者名義に所有権保存の登記をした上で差押えの登記をすることになる。不動産の表示はされているが、所有権保存の登記がされていない場合でも、差押えの登記の嘱託ができるが、この場合も同様登記官は職権で債務者名義に所有権保存登記をすることになるので、同様未登記である旨を表示して嘱託する。
 差押えの登記の嘱託手続については、不動産登記法三五条の規定の準用があるが、嘱託書に添付すべき書面としては、登記原因を証する書面だけである。登記原因が競売開始決定である以上、当該開始決定正本を添付する。表示の登記のされていない不動産について差押えの登記嘱託をする場合は、土地については土地の所在図及び地積の測量図、建物については建物の図面及び各階の平面図を添付しなければならないので、債権者に競売申立ての際にこれらの図面を提出させるべきである。図面は、土地の場合は、三〇〇分の一の縮尺による測量図と所在図、建物の場合は五〇〇分の一の縮尺による図面、二〇〇分の一の縮尺による各階の平面図を提出させる。なお未登記不動産について嘱託する場合には所有者の住所証明書(住民票)の添付を求める登記所があるがその場合は債権者をして提出せしめて添付する。
 民事執行法四八条二項によると、差押えの登記をしたときは、登記官はその登記簿の謄本を執行裁判所に送付しなければならないとされている。ところが登記記入のある登記簿謄本を新たに作成することは、目的不動産の個数が多い場合には登記官の労力は容易でないし、そのために登記簿謄本の送付が遅れると執行手続の遅延は免れないので、裁判所の実務は旧法当時から競売申立ての際提出された登記簿謄本を登記の嘱託言とともに登記官に送り、登記官はそれを利用して登記事項を記入しこれを民事訴訟法旧六五二条、旧競売法二六条の謄本として裁判所に送り返す方法が採られていた。民事執行法においても、この方法が採られるので、登記官は嘱託書とともに提出された登記簿の謄本に差押えの登記事項及びその謄本作成後の登記事項を記載し、かつ、民事執行法四八条二項の謄本とする旨の奥書きをしたうえ、これを執行裁判所に送付する取扱いは差し支えない。
 しかし、最近は性能のよい複写機により容易に謄本が作成されるところから、このような方法はかえって面倒なためか、登記官において競売中立書提出の謄本作成後に登記事項の変動がない場合でも新たに謄本を作成して送付してくる登記所も増えているようです。このような取扱いによると裁判所は前述のような登記簿謄本は送付しないことになります。
 登記官において差押えの登記を完了したときは、登記原因を証する書面(競売開始決定正本)に登記済の旨を記載し、登記所の印を押捺して、これを、差押登記を記入した登記簿謄本とともに執行裁判所に送付する。これによって裁判所は目的不動産の権利関係の変動を認識することになります。
 この登記済証は、本来は権利証であるから、不動産登記法六一条によれば登記権利者に交付しなければならないのであるが、差押登記の登記済証は、売却による所有権移転登記の登記済証とは異なり、実質的な権利証ではなく、また、これを登記権利者である差押債権者が交付を受けて保管する利益も、必要もないし、むしろ裁判所が保管する方がじ後の競売手続を続行する上において当事者にとっても便宜であるところから、実務は事件記録に編綴しておく取扱いです。

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