仮差押えの処分禁止の効力

 民事執行法は、差押えの登記後に目的不動産が第三者に譲渡されて所有権移転登記がされるとか又は抵当権設定登記がされるなどの債務者の処分行為は、手続上無効であるとの立場を採用していますが、この考え方は、仮差押えの処分禁止の効力にも適用されるとしています。
 仮差押えの処分禁止の効力については、従来の判例及び実務は、仮差押執行後にされた処分行為は、仮差押債権者の関係においてのみ対抗できないとの個別相対効の考え方が採られ、しかも被保全債権の限度においてしか効力が生じないとされていたのですが、民事執行法は、仮差押えの効力に関し、被保全債権の額にかかわらず、仮差押執行後の処分行為は仮差押債権者との間だけでなく、その他のすべての債権者との関係で無効視されるという強い効力を認めることになりました。仮差押えの効力が披保全債権の範囲内に限られるかどうかについては、民事執行法は、特段にこれについて触れていませんが、最高裁の見解は新法下においても変更されてはいないと考えられるので、仮差押債権者は、仮差押えを受けた被保全債権の範囲内でしか配当にあずかれないことになります。したがって債権全額について配当を受けたければ、配当要求の終期までに本案訴訟で勝訴判決を得て配当要求をするか、被保全債権になっていない分について仮差押えをして配当要求をしなければなりません。

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 Aが甲債務者所有の不動産に対し仮差押えを申請し、それが許容されて仮差押えの登記がされた後に、甲は乙に当該不動産を譲渡し、その所有権移転登記がなされたところ、新所有者乙の債権者Bが不動産に対し強制競売の申立てをし、開始決定がされた。その後Aが本執行の要件が具備したとして、強制競売の申立てをして開始決定がされた場合には、甲の乙に対する譲渡は仮差押えの処分禁止に抵触するので、手続上無効であるから、乙に対してなしたBの強制競売申立てによる開始決定は民事執行法五三条により取り消されることになります。ただAの差押えについては、請求異議の訴え等によって手続が取り消されることもあるから、執行裁判所としては、仮差押えが本執行に移行したというだけで直ちにBの強制競売手続を取り消すべきでなく、Aの競売手続を進めてその事件において売却が終了した時点で、Bの競売手続を取り消すようにすべきです。
 この場合、Bの事件は差押えの登記の嘱託まで行い、その後は事実上手続を停止し、Aの本執行を待つよりほかない。これについては、自己の債権につき将来の権利実現を保全するという仮差押え本来の制度目的に照らし、仮差押えの効力をこのように強く認めるべきかどうか疑問であるとの見解があります。
 A債権者の仮差押登記後に、B債権者による抵当権の設定登記がされ、その抵当権の実行による競売の申立がなされた場合には、仮差押え後のBの抵当権は、手続上無効であり、しかもB抵当権者は、A仮差押債権者が本案訴訟で敗訴し、又は仮差押えに対する異議訴訟等で仮差押えがその効力を失った場合でなければ、配当を受けることができないのであるから、このような抵当権に基づいて競売手続を進行させる実益はない。したがってBの競売の申立については、執行裁判所としては、開始決定及び差押えの登記をした段階で事実上手続を停止しておくべきであるとの見解がありますが、これに対しては、このような抵当権でも、不動産の売却により抵当権が失効するまでの間は、抵当権の有する換価権能に基づいて競売手続をなし得るのであるから、B抵当権者が手続停止を希望しない限りは、そのまま競売手続を進行させるべきであるとする見解があります。この場合換価まで進行したときは、換価代金は法九一条一項六号により供託しておき、その後仮差押えの帰すうが確定したときに法九二条で配当を実施することになります。
 この場合、Aの本執行がないまま、しかもそれが長期に亘ることも考えられること、法律上Bの競売申立て手続を停止しなければならないという解釈は採り得ないので後者の見解により処理すべきものと考えられます。実務の実際は、この見解を採ったとしても、換価の前の段階で事実上停止するという扱いが多いのではなかろうか。
 ところで、B抵当権者による競売手続が進行中に、Aの本執行により二重開始決定がされた場合には、B抵当権者による競売手続を進行させる実益はないから(B抵当権は無視され、配当を受けることはできない)その段階でBの競売手続は事実上停止し、Bのそれまでの手続を利用して(Bの支出した執行費用は配当手続で精算する)、Aの強制競売中立事件により手続を進め、その事件による売却が終了した時に、Bの競売事件は担保権が存在しなくなったものとして、同手続を取り消すべきであるとの見解があろうが、Aの本執行がなされた場合でも、抵当権の換価権能がなお終局的に失われてはいないこと、Bによる先行の抵当権実行による競売手続を取り消す根拠に乏しいこと等から、Bが競売申立てを取り下げない限りその競売手続によって進めるべきです。実務ではBは競売申立てを取下げることになるでしょう。

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