差押えの効力

 差押えがあると、債務者は処分制限の効力を受けることになりますが、その差押えの効力は、原則として競売開始決定が債務者に送達された時に生じます。しかし、開始決定の送達前に差押えの登記がされたときは、その登記の時に差押えの効力が生ずることになります。差押えの登記がなされれば、第三者に対しその登記の時に処分制限の対抗力を生ずるからです。

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 執行の目的(抵当権の目的)である建物が、増築された場合には、差押えの効力は増築後の建物の全部に及ぶ。何となれば増築部分も当該建物の構成部分であり、増築後の建物と従前の建物とは同一性を維持しているからです。差押えの効力は、反対の意思表示のない限り主たる不動産のみでなく、例えば主たる不動産が建物の場合には、従物である附属建物にも当然に及ぶのです。差押え後新築された附属建物にっいても同様です。したがって、差押えの効力を受ける従物に対しては、その後独立した執行はできなくなります。ただ当該附属建物が主たる建物とは別個に登記されている場合には差押えの効力は及ばないものと解する。建物に備え付けられた冷暖房設備については、その種類、構造及び備え付けの態様等によって、具体的には建物の附加物であるものと、従物とみられるものとがあろうが、いずれにしても備え付けの時期を問わず差押えの効力が及ぶものと解すべきです。
 抵当権実行としての競売は抵当権の効力の及ぶ範囲において目的物を換価するものであるから、この場合の差押えの効力の及ぶ範囲も同様に解すべきです。例えば、工場建物が差押えの効力が生じた後に火災によって焼失し、その際工場抵当法二条、三条による機械器具が他に搬出された場合は、搬出されたこれらの物件に対し差押えの効力が及んでいるのであるから、これに対し競売手続を続行できるのです。
 差押えの効力(抵当権の効力)は建物の所有権に従属する権利である敷地の地上権、賃借権にも及ぶのであるから、建物の差押え後敷地の地上権、賃借権を合意解除によって消滅させるとか、即決和解にょって解除してもこれをもって差押債権者には対抗できない。また、建物所有者が敷地の賃借権を放棄した場合も、同様差押債権者ないし買受人に対抗できない。ただ、建物に対する差押えの効力は、その目的たる建物に限り、かつ、建物の所有者たる債務者及び債務者からじ後建物の所有権を取得する第三者に対し生ずるに止まるのであるから、敷地の賃借権については、賃貸人の承諾が得られなければ、建物の買受人はその賃借権の取得をもって敷地の賃貸人に対抗できないので、建物の買受人は敷地の賃借について借地法九条ノ三により賃貸人の承諾に代わる許可の申立てをして、許可の裁判を得なければならないことになる。
 区分所有の建物の専用部分に対する差押えは、その所有者に属する共用部分(電気、ガスの設備、エレベーター等)の共有持分にも及ぶのです。
 差押えは消滅時効の中断事由とされます。差押えは権利行使の一態様と認められるからです。この場合中断の効力が生ずるのは、執行着手時(競売開始決定の送達又は裁判官が決定書に記名押印して書記官に交付したとき)という見解がありますが、競売申立時と解するのが通説、判例です。
 強制競売を申立てた債権者は、将来目的不動産の換価によって得られる売得金の中から弁済を受けることのできる地位を取得する。他に債権者があれば平等の割合で弁済を受けるのです。したがって目的不動産の収益である地代、家賃等に差押えの効力が及ぶものではありません。地代等については強制管理、債権差押えの方法による。差押債権者は開始決定後でも買受申出があるまでは、いっでも競売申立を取下げることができ、買受申出があった後でも最高価買受申出人の同意を得て取下げができます。取下があったときは差押えの効力は消滅します。
 強制競売は、債務者所有の不動産を換価し、その換価代金をもって債権の弁済に充てようとする制度であるから、競売目的不動産について換価が終了するまで債務者の利用及び管理をすることを禁ずるものではない。したがって、債務者は通常の用法に従って不動産を自ら使用し、又は他人に占有させることによって収益をあげることができる。ところで換価が終了した場合には、目的不動産の使用、収益権限は買受人に移転するのであるから、債務者はその時までは差押えの当時における不動産の本来の用途目的の範囲内で債権者の利益を害しない限り、使用、収益が許されます。それ故に債務者又は不動産占有者は当該不動産の価値を減耗する行為は許されず、もし債務者らがその不動産を破損、毀減するような行為をするとき又はそのおそれがある行為をするときには、執行裁判所は差押債権者の申立により、債務者に対し(占有者は除かれる)それらの行為の禁止、あるいは債務者の占有を奪い、執行官保管の保全処分ができることになっています。
 差押えがされると、債務者、所有者はその換価価値に影響を及ぼすような、例えば目的不動産を他に譲渡したり、担保権を設定したりする一切の処分行為は許されない。差押えの登記がされると、このような処分制限の効力は、第三者にも対抗することができることになります。この場合の第三者は悪意であるときはもちろん、たとえ差押えの事実を知らなかったとしても処分制限の効力を受けることになります。
 差押えがされた場合の処分制限の内容については、法律は何らの規定をおいていないが、一般的な内容としては、当該不動産の所有権を譲渡したり、担保権を設定したり、用益権の設定(これらの登記を含む)をしてはならないというものです。
 債務者、所有者がこの差押えに反して処分した場合に、その処分にどのような効力を与えるかについて、旧法時には「絶対効説」と「相対効説」とがありました。
 絶対効説というのは、差押えの処分制限に反する債務者の処分行為は、一切無効であり、そのような処分に基づく登記申請は不動産登記法四九条二号により却下すべきであるというのであるが、今日ではその説を採るものはありません。
 相対効説には、更に次のように二つの考え方があります。
 手続相対効。差押えに反する債務者の処分行為は配当手続上無視するというものです。
 個別相対効。差押え後の処分行為は、差押債権者及びその処分の対抗要件を備えた時点(所有権移転登記又は抵当権設定登記)までに執行手続に参加した他の申立債権者、配当要求債権者、仮差押債権者らには対抗できないが、それ以後の配当要求債権者らに対しては、その処分の有効性を主張できるというのであって、差押え後の処分の対抗要件を備えた時期をもって処分禁止の効力の相対性に限界を設定するものです。
 この見解によると、差押え後に当該不動産について所有権の移転があると、旧所有者に対する債権者は競売の申立てや、配当要求はできなくなり、また、差押え後に抵当権設定登記がされると、その後に配当要求をした債権者は、抵当権者の優先弁済権を認容せざるを得なくなります。
 この手続相対効と個別相対効の差異を判り易くすると、例えば、差押えに反して債務者(甲)が当該不動産の所有権を乙に移転した場合に、その換価代金の余剰があるときは、それは新所有者乙に交付すべきか、それとも旧所有者甲に交付すべきかという点にあります。個別相対効によると新所有者乙に交付すべきであり、手続相対効では旧所有者甲に交付することになります。これは差押え登記後に抵当権の設定登記がされた場合も同様であって、手続相対効ではその抵当権は無視されるが、個別相対効では、抵当権者にも換価代金が配当されることになります。
 旧法下においては、個別相対効説が通説であり、判例であったため、執行実務の上で永い間ゆるぎのない地歩を占めていたのです。
 旧法下における個別相対効説は、我が国のように債権者平等主義を採用しているところでは、債権者間の均衡を失する場合があり、また配当手続上困難な問題が多かったのです。例えば差押え登記後に、債務者が他の債権者を詐害する目的で不動産が譲渡されたときは、元の不動産所有者に対する他の債権者による競売の申立てや、配当要求の申立てはできないことになるし、差押え後抵当権設定登記がされ、その後に一般先取特権者による配当要求の申立てがあると、配当の場合には差押債権者と抵当権者は同順位、抵当権者は一般先取特権者より先順位、一般先取特権者は差押債権者より先順位となるいわゆる循環関係を生じ、配当実務上極めて困難な問題を生ずる結果になる。また、この差押え後の処分行為は、当事者間では有効であることを否定するものではないが、このような処置を執ることは、執行裁判所が執行手続の中で所有権の譲渡や抵当権の設定について一応有効であると認定したことになるものであって問題があります。なお、差押え後の抵当権者は無名義の配当要求債権者ということになるので民事執行法における債務名義によらない債権者は配当要求を認めない制度との関係で問題があり、それに加えて手続の進行を煩雑にせずに迅速に処理するという要請から、民事執行法では、差押え後の処分行為は差押債権者との関係だけでなく、執行手続に参加したすべての債権者に対して対抗できないとする手続相対効を採ることになったのです。
 この手続相対効の考え方について、更に数行すると、差押えの登記後に当該不動産について所有権の譲渡がされた場合、その処分行為は当事者間では有効であり、その登記も許されるが、その処分を差押債権者に対抗できず、その差押えに係る競売手続により換価され、競売手続が終了したときは競売手続の上ではモの処分行為は無視されることになります。
 しかし差押え後に譲渡があった場合には、その後は旧所有者に対する他の債権者は二重差押えはできない。なぜなら他人名義になっている以上、旧所有者に対する差押えの登記をする方法がなく、結局他人の物を差押えたことになるので、競売申立ては却下されることになります。ただし差押え後の譲渡は執行手続上は無視されるので、旧所有者に対する他の債権者は、配当要求の終期までに配当要求をすることによって配当にあずかることができる。この場合もし配当剰余金が生ずれば旧所有者に交付されます。
 この事例の場合新所有者に対する債権者は強制競売の申立てをすることはできるが、開始決定を得ても、旧所有者に対する競売手続が進められている限りは、その手続に参加することも、配当等にあずかることもできない。まったく別個の執行事件になるのです。このようなことは、仮差押えの登記後に所有権が移転され、新所有者に対する強制競売の開始決定がされた場合に、仮差押債権者が本案訴訟で勝訴し、本執行の申立てをしたときにも生ずるのであって、新所有者に対する強制競売申立債権者は、権利の満足を受けることはできないことになります。また、差押え登記後に抵当権の設定登記がされても、その抵当権は、差押えによる手続が進められている限り無効として処理されるので、その抵当権者は配当又は弁済金の交付は受けられません。たとえ、競売の申立てをし二重の開始決定がされても配当等にあずかることはできないから、配当要求の終期までに仮差押えをするか、債務名義を得て配当要求の申立てをするほかありません。もし、この競売事件において債務者に交付すべき売却代金の剰余金があれば、抵当権者は競売手続外で物上代位権を行使して剰余金の返還請求権を差押えることができます。差押え後の抵当権であっても債務者との関係では有効であるからです。
 留置権については、設定行為によらずに、売却手続の終了するまで発生する可能性のあることから、差押えによる処分制限を受けることはありません。
 民事執行法は、差押えの登記後に目的不動産が第三者に譲渡されて所有権移転登記がされるとか又は抵当権設定登記がされるなどの債務者の処分行為は、手続上無効であるとの立場を採用しているが、この考え方は、仮差押えの処分禁止の効力にも適用されるとしています。

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