競売目的不動産上の権利

 競売の目的不動産上に他の権利関係が存する場合に、強制競売の申立てができるかどうかにつき考えてみましょう。通常起りうる問題をあげると次のとおりです。
 第三者名義の不動産に対する執行。強制執行は債務者の責任財産に対してのみ行われます。不動産に対する執行において、債務者の所有として登記してある場合は、登記簿謄本を、未登記不動産については債務者の所有に属することを証する文書の提出を要求しているのも、これがためです。したがって、債務者名義になっていない不動産に対する強制競売の申立ては却下されます。このように他人名義のままでは差押えの登記ができないから、債権者は民法四二三条により債権者代位権に基づいて登記名義を債務者に変更するとか、詐害行為により第三者名義になっている場合には、債権者は民法四二四条の取消権を行使して債務者所有に復帰せしめたうえで変更後の登記簿謄本を添付して競売を申し立てなければなりません。
 相続登記のされていない不動産に対する執行。債務者に一般承継があったのに、いまだ相続登記を経ないで披相続人の所有名義のままの不動産に対して競売申立てをするには、債権者は民法四二三条、不動産登記法二七条、四六条ノニにより代位による相続登記を経た上で相続人に対し強制競売の申立てをしなければなりません。この債権者による代位登記は代位債権者の単独申請によるのであり、代位原因は債権者が当該代位登記を債務者に代わって申請しなければ保全し得ない登記請求権又はその他の権利を保全することであって、代位原因を証する書面は金銭消費貸借契約証書であるとか、債権者が債務名義に承継執行文の付与を得てあれば、承継執行文などが考えられる。開始決定後差押登記前に相続が開始された場合には、債権者は開始決定正本を代位原因証書として相続登記をします。
 国が債権者である場合には、債務者の相続人のために代位による相続の登記の申請は、当該債権を管理する機関からなすべきです。

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 二重の保存登記があり、競売の申立てはそのいずれの登記簿謄本を添付してなされたとしても、現実の建物に対して申立てられた以上、競売手続は有効に進行することができる。不動産が一つは債務者、一つは他人のために登記されてある場合においては、債務者が真正の所有者であるか否かによって定まるのですが、真の所有者が何人なりやは受訴裁判所の判断事項であるから、執行裁判所としては登記簿謄本の記載によって処理するほかありません。
 買戻約款のある不動産に対する執行。債務者と第三者との間に買戻約款の登記ある不動産でも、買戻期間内は依然として債務者所有の不動産であるから、競売の申立てができることはいうまでもありません。
 仮差押えの登記のある不動産に対する執行。強制執行を保全するため債務者所有の不動産に対し仮差押えをした債権者は、その後債務名義を得てこれにより当該不動産の強制競売を申し立てることができることはもちろんです。
 既に仮差押えの登記がされている不動産に対し、他の債権者は強制競売の申立てをすることができます。この場合強制競売は仮差押えによって妨げられるわけではなく、また、仮差押債権者は何らの手続を必要とせず当然配当を受けるべき債権者に加えられます。
 仮差押えの登記後に抵当権が設定された不動産に対し、他の債権者が強制競売の申立てをした場合に、民事執行法は仮差押えについても手続相対効を採用したために、仮差押債権者が債務名義を得て本執行をしたときには、抵当権者は仮差押債権者に対抗できないことになり、執行手続上は全く無視されるととになります。したがって、売却代金は仮差押債権者と強制競売の申立てをした債権者において分配することになります。しかし、仮差押債権者が本案訴訟で敗訴するか又は仮差押えがその効力を失ったときは、抵当権者は仮差押えによる処分制限の効果を受けないことになるので、強制競売申立債権者に対しては完全に優先権を取得することになり、満額配当を受けられます。
 仮差押えの登記後に債務者が目的不動産の所有権を第三者に譲渡した場合でも、仮差押債権者自身が債務名義を得て本執行に移行するときは、その譲渡は無視され、前所有者に対する差押登記は許されます。譲渡後は債務者に対する一般債権者が債務名義を得ても強制競売の申立てをすることはできなくなります。仮りに譲渡人である債務者に対し競売開始決定をしても差押えの登記はできず、したがって、差押えの実効性を確保することができない。この場合一般債権者は本執行に対し配当要求の終期までに配当要求をすれば売却代金の分配を受けられます。これに反し仮差押債権者が本案訴訟で敗訴し又は仮差押えがその効力を失ったときは、第三者は目的不動産の所有権を完全に取得することになります。
 仮差押えの登記後に、当該不動産が第三者に譲渡され所有権移転登記がされた後に、新所有者に対して強制競売手続が開始されたところ、仮差押債権者が債務名義を得て本執行の申立てをしたときは、新所有者に対する強制競売手続は、当事者が異なるので、二重開始の関係にはならないから、執行裁判所はその競売手続を停止し、仮差押債権者の本執行事件で手続を進めることになります。そして仮差押債権者の本執行事件が売却によって終了したときは、新所有者に対する強制競売手続は取り消されることになるのです。仮差押債権者が敗訴するか、仮差押えが効力を失ったときは、新所有者に対する強制競売手続が続行されることになります。
 譲渡その他の処分禁止の仮処分登記のある不動産に対する執行。不動産の強制競売は一種の譲渡手統であり任意処分とその本質を同じくするものであるから、譲渡禁止の仮処分のある不動産に対しても強制競売をすることは差し支えないが、目的不動産の買受人は、その所有権取得をもって仮処分債権者に対抗できない結果、仮処分債権者が後にその本案訴訟においで勝訴の確定判決を得たときは、売却による所有権取得を否認されることになります。このことは登記実務の上にも現われていることであって、すなわち仮処分債権者が本案訴訟の勝訴の確定判決をもって目的不動産につき自己のために所有権移転登記を申請する際に、併せて仮処分登記後に第三者のためになされた所有権移転登記の抹消登記申請をしたときは、登記官は第三者の承諾がなくともその登記を抹消することができるとしています。
な 実務では、譲渡禁止の仮処分ある不動産に対し強制競売の申立てがされた場合は、競売開始決定をし、差押えの登記をすませた段階で競売手続を事実上停正し、仮処分又は本案訴訟の結果を待つという態度をとっている取扱いが多い。当事者間の紛争をより以上拡大しないようにとの配慮によるものであり、また、差押えの登記をしておくことは、仮処分執行が取り消(又は解放)された場合、それと同時に目的不動産が他に処分され、強制執行が妨害されることを防ぐためにも役立つことにもなり得て、妥当な処置といえるでしょう。
 占有移転禁止仮処分の執行がされている不動産に対する執行。占有移転禁止の仮処分がされている不動産に対しては、強制競売はもちろん、その後になされた抵当権に基づく競売の申立ては許され、競売手続を進行し完結できます。ただこの仮処分の執行は売却によっては失効せず、買受人に対抗できるので、買受人の申立てにより占有者に対し不動産引渡命令が発せられても現実にその引渡執行はできません。
 仮登記のある不動産に対する執行。仮登記は、本登記をするに必要な実体法上又は手続法上の要件が具備していない場合に、とりあえず仮登記をしておいて、将来必要な条件が備わったときに本登記をするために、あらかじめその順位を確保しておくための登記です。仮登記には、登記すべき実体上の権利変動(権利の設定・移転等)は既に生じていて、本来ならば本登記をすべきですが、登記申請に必要な手続上の諸条件が完備しないため、やむを得ず後日なすべき本登記の登記簿上の順位を保全するためになすものと、当事者間には登記すべき権利変動はいまだ生じていませんが、将来その権利変動を生ぜしめるべき請求権が発生している場合、その請求権の順位を保全しようとするとき、又はその請求権が始期付き又は停止条件付き若しくは将来において確定すべきものであるときに当該請求権を保全しようとするときにするものとがあります。
 こいずれの仮登記も、仮登記後に仮登記に基づいて本登記がなされると、その本登記の順位は仮登記の順位によるのです。例えば、甲から乙へ所有権移転仮登記後、甲から丙へ所有権移転登記又は抵当権設定登記がなされた場合について考えてみると、乙の仮登記を本登記したときは、その所有権移転登記の順位は仮登記の順位によることになるので丙への権利変動に優先することになるから、丙は結局無権利である甲から物権を取得したことになるのです。したがって、丙はその権利取得を乙に主張できないのはもちろんである。しかしここに述べたように仮登記は将来なさるべき本登記のためにその順位を保全する効力を有するにすぎないから、仮登記だけではいまだその順位をもって第三者に対抗し得ない。したがって、仮登記があるために所有者の地位に変動を来さないので、仮登記があっても債権者は競売の申立てをすることは差し支えません。

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